2018年11月の読書まとめ

2018年11月の読書メーター
読んだ本の数:40冊
読んだページ数:10967ページ
ナイス数:2954ナイス

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■柔かい月 (河出文庫)
タイトルから勝手にファンシーなイメージを抱いていたが、まったく違った。物理学や生物学をモチーフとした物語は哲学的なメッセージが込められており、その変幻自在な語り口はまるで魔術師のよう。主観と客観、男と女、月と鳥。対極にあるものもそうでないものも、そこに境界があるものは、すべて混ざり合い、渾然一体となる。区別しない、カオスをカオスのままに言葉で置き換えたとするならば、本書のような世界になるのかもしれない。
読了日:11月30日 著者:イタロ カルヴィーノ
https://bookmeter.com/books/579609

■イノサンRougeルージュ 9 (ヤングジャンプコミックス)
国王の処刑を巡り、議会は混迷を極めるが、その混迷は市井にも広がっていた。一つのパンを巡って民衆が血で血を洗う。この状況を一新するには、尊い生贄が必要であると断じたサン・ジュストは国王の処刑を求め、議会はまさにその一票により国王処刑を確定したのだった。計り知れない苦悩と絶望から自らを奮い立たせ、処刑を執り行ったアンリだが、それが果たされたからと言って彼に救いが訪れるわけではない。生まれたばかりの醜悪な「共和国・フランス」を、彼は今後も苦しみながら生きるのだろう。
読了日:11月30日 著者:坂本 眞一
https://bookmeter.com/books/13171020

■山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)
著者短編集。やはり表題作が出色である。『山椒大夫』は、情感に訴えてくる物語だとは思うのだが、その内容を上手く自分のなかで消化できず、特に姉の死には本当に納得がいかない。いかないが、そのような人生で人はなにを見出すか、どのような選択をするのか考えてみなさいという鴎外からのメッセージかもしれない。時間をおいて読んだらまた違う感想が出てくるだろうか。表題作のほかは『百物語』が印象に残っている。実際のところ、鴎外の作品は海外ではどのくらい読まれているのだろうか。
読了日:11月29日 著者:森 鴎外
https://bookmeter.com/books/565234

■詩と真実 (第3部) (岩波文庫)
第三部。この時期感じていたフランスの生活様式、文学、学問に対する反感や不満を綴る。反対にシェイクスピアに対する思いを「崇拝」としていたことに興味深く感じた。なんの解説だったか、シェイクスピアの訳者・福田恒存氏が「シェイクスピアの作品には宇宙感情が存在する。ゲーテにもわずかに感じるが…」と書いていた。私はゲーテの作品にこそ宇宙感情があると感じるのだが、これはたぶん無関係ではない。ゲーテとシェイクスピアの関連性(ゲーテのシェイクスピアに対するリスペクト?)について考察するのも面白そうだ。
読了日:11月28日 著者:ゲーテ
https://bookmeter.com/books/167041

■きまぐれ博物誌 (角川文庫)
著者エッセイ集。以前別のところで読んだことがあるのだが、氏が年賀状に書いたという文、「ことしもまたごいっしょに九億四千万キロメートルの宇宙旅行をいたしましょう。これは地球が太陽のまわりを一周する距離です。速度は秒速二十九・七メートル。マッハ九十三。安全です。他の乗客たちがごたごたをおこさないよう祈りましょう」が大変好き。物事に対するフラットな考察や鋭い批評は、著者の透明な視線に貫かれており、読んでいて興味深い。いま書かれたらフェミニスト的な視点から叩かれそうな内容などもあり、すこし苦笑してしまった。
読了日:11月27日 著者:星 新一
https://bookmeter.com/books/5657735

■偶然の音楽 (新潮文庫)
オースターの書く世界における「偶然」は、単なるできごとではなく、運命(フェイト)である。金を手に入れたこと、その金を使い果たすために旅に出たこと、行く先で彼の人生を揺さぶるような出会いがあったこと。すべてが運命で定められており、やがて来る結末もまた逃れられないもの。なぜそのような人生が彼に定められていたのか、理由は作中では語られない。だが人生とは多くの場合そうであるし、理由とは第三者が勝手につけるものだ。弾け飛んだ彼の生と死に対する意味づけは、読者であるわれわれに委ねられている。
読了日:11月26日 著者:ポール オースター
https://bookmeter.com/books/569400

■新・体育の日
e-Sportsが盛んになった未来では、生身の人間のスポーツは観戦されなくなっていた……。スポーツが好きな人としてはそんな未来は薄ら寒いと感じるのだろうが、スポーツはもっぱら観戦する側のわたしとしては「怪我しないし良いね」などと思ってしまう。実際のところ、バーチャルが極まれば一周回ってアナログの世界に回帰する、ということは十分にあり得ると思う。スポーツ界のルネサンス。
読了日:11月25日 著者:誉田 リュウイチ
https://bookmeter.com/books/13204572

■ファミリー・ライフ (新潮クレスト・ブックス)
「わが家でだれよりも値打ちのある人間」の兄が、不幸な事故で寝たきりに。家族による介護生活が始まった。介護の問題を身近に感じたことがなかったのだが、この物語によって多少なりとも具体的なイメージを得た。その苦労は、介護業務による肉体的な負担のみに留まらない。有能で羨望すら感じていた兄が、自分ではトイレの始末もできず、言葉も話せないほどに変わり果てた衝撃。そしてそれには終わりがなく、果てがない。文章を書くということに目覚めた彼から見た世界は生々しく、触れることすらためらうような鋭さによって、読者を抉る。
読了日:11月25日 著者:アキール シャルマ
https://bookmeter.com/books/12559005

■小さな手
最後まで諦めないこと。親切は自分に返ってくるとよくいうが、彼の場合、過去の親切が未来の自分を勇気づけた。努力しても報われないことは多々あり、少女のように上手くいくとは限らない。だが、彼がもう一度筆を取ろうと心動かされたこと、そこに意味があるのだと思う。
読了日:11月24日 著者:神家 正成
https://bookmeter.com/books/13203983

■竜とわれらの時代 (徳間文庫)
手取の里で発見されたひとつの骨の化石。少年たちはいつか自らの手で恐竜の骨の全体像をこの手で発掘してみせようと夢をみる。長い年月をかけた研究と発掘作業、それに関わる人々の知る・信じる神話、宗教、そして思想。さまざまなものがぶつかり合い、研磨しあい、やがて結末に収束していくのはまさに大河ドラマを見ているよう。読んでいて感じたのは、科学もひとつの宗教であるということ。それぞれの学派は宗派そのものであり、派閥はやがて争いを生む。作者も膨大な労力をかけたのだろうというのが伝わってくる、なかなか読み応えがある作品。
読了日:11月24日 著者:川端 裕人
https://bookmeter.com/books/419476

■阿部一族・舞姫 (新潮文庫)
著者短編集。『かのように』『鶏』『安部一族』が面白かったが、仲睦まじい老夫婦の知られざる過去を描いた『じいさんばあさん』が特に味わい深く感じた。最初の数年以降、40年来別々に暮らした彼らが、年老いてからようやく夫婦らしい生活を送る。どのような思いでいるのだろう、と想像が尽きない。『舞姫』は時代柄がよく反映されている。裏切りによって発狂し、精神を壊す以外に身を守る術のなかったエリスを思えば哀れと感じるよりほかにない。共感するか否かはさておき、最後の一行は名文。
読了日:11月23日 著者:森 鴎外
https://bookmeter.com/books/547670

■詩と真実 (第2部) (岩波文庫)
第二巻。グレートヒェンとの恋に敗れ、傷心のゲーテだが、彼の瑞々しい感性は年を追うごとに花開き、さまざまな分野への興味もまた開拓されていく。マリー・アントワネットの輿入れに際した有名なエピソードも、このころの出来事である。豪華な織物のモチーフが、伝説上もっとも凄惨な婚礼の例であること、それがなんの配慮もなく扱われていることに激憤するゲーテ。このエピソードが事実であれ、ゲーテによる創作・脚色であれ、いずれにせよ彼の強い感受性、芸術への深い造詣を表していると思う。
読了日:11月22日 著者:ゲーテ
https://bookmeter.com/books/167040

■第九地区小学校・秋の大運動会(記念日にショートショートを)
炎天下が続くなか、近未来の人々はVRで運動会を行なっていた。能力が平均値化されたアバダーを駆使してスポーツを行うというのは果たしてスポーツの精神に則っているのかと疑問があるが、将来的には起こり得る。わたしはスポーツが苦手で運動会なんてまったく興味がなかったが、こういう運動会なら参加するのも嫌ではないかな、怪我もしないし、と思ってしまう。不健康であることは否めないが。
読了日:11月21日 著者:行成 薫
https://bookmeter.com/books/13203989

■忘れられた花園〈下〉 (創元推理文庫)
ブラックハースト荘の人々から目が離せなかった。子どもが欲しいという執念にとりつかれたローズ、ローズの変貌に途方に暮れたナサニエル、なんとしてでもローズとの絆を取り戻したいイライザ、そして自分のことしか見えていないアデリーン。歴史とは勝者によって綴られるもの。この場合の勝者は生き残ったアデリーンなのだろう。彼女によって生み出された虚構からは、ネルが、あるいはカサンドラが、自分自身の人生を投影しながら、真実らしきものを読み解いていくしかない。わたしたち読者が物語を読み、解釈するように。
読了日:11月21日 著者:ケイト・モートン
https://bookmeter.com/books/11747783

■忘れられた花園〈上〉 (創元推理文庫)
老齢の祖母を看取ったカサンドラ。やがて気づかされる祖母の秘密。「ネル」とは一体誰だったのか?三世代それぞれの視点から、名前のない少女「ネル」の謎を紐解いていく。探求こそが物語だ、と思わされる筆力。事実は時間とともに風化し、消失していくなかで、三人それぞれがルーツを捜し求めていくさまに引き込まれた。秘密は明かされるのか、それともやはり謎が残るままなのか興味が尽きない。下巻へつづく。
読了日:11月20日 著者:ケイト・モートン
https://bookmeter.com/books/11747831

■夢・出逢い・魔性 (講談社文庫)
Vシリーズ第4弾。クイズ番組に出演することになった阿漕荘の面々が、またもや事件に巻き込まれる。今回、林や祖父江の登場はなし。だからだろうか、紅子のキャラクターは安定しており、純粋にミステリに没頭して読むことができた。普段よりもエンタメに寄っているのも面白い。誰もがなにかの皮をかぶっており、その皮らしいものを演じている。それなしではあまりに無防備すぎ、弱すぎるのだ。「また人を殺すかもしれません。虫が集まるのと同じ、そこが明るいから」という独白が印象に残っている。
読了日:11月19日 著者:森 博嗣
https://bookmeter.com/books/566926

■体育の日
自殺を決めた人を引き止める方法は一つしかない。自分自身で納得し、生を選択させることだ。遺書を用意し、あとは実行するだけの男が、その直前に見たものは……。計り知れないほどのプレッシャーに、耐えきれないという絶望。きっと誠実な人なのだと思う。力を抜いて、たまには自分を甘やかしてほしい。
読了日:11月18日 著者:木下 まさき
https://bookmeter.com/books/13203900

■7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT(6) (ヤンマガKCスペシャル)
「白と赤、どちらも高潔で美しい。どちらがより美しいとは言い切れない」どちらの一座にも魅力があり、あとは好き好きと言えるのだが、今回は興業収入という動かぬ数字が勝敗を決める。海軍大臣一座からの妨害が絶えないなか、シェイクスピアは持ち前の自信を失わず、そしてこれまで7人(8人)で培ってきたものを総動員し、危機を乗り越えた。生の芝居はその場その場でしかない瞬間の積み重ねだ。だからこそ、良い舞台ほど何度でも観たくなる。
読了日:11月18日 著者:ハロルド 作石
https://bookmeter.com/books/13068515

■ヒッコリー・ロードの殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
機械のように正確無比なポアロの秘書ミス・レモンが、らしくないミスを連発。そのわけを聞いたポアロが学生寮で起こった殺人事件の解決に身を乗り出す。いつもながらクリスティの作るキャラクターの多彩さ、複雑さに感心した。「(ポアロに人間観察を披露され)結局人殺しのできないやつはいないということですか」「わたしはしばしば、そうじゃないかと思うことがある」実際にそうかもしれない。人はAという側面を持つと同時にBという側面を持ち、どちらかが現れることで、あるいはその両方が作用することで、思いもかけない行動をとるものだ。
読了日:11月17日 著者:アガサ・クリスティー
https://bookmeter.com/books/547228

■雁 (新潮文庫)
妻子ある身の末造と、美しく清廉とした印象のお玉。そして立ち回りさえ上手くいけば、お玉にとってはヒーローになれたかもしれない岡田。三人を中心とした恋愛模様が描かれている。蛇が鳥を呑むシーンが、絵画を見るように生々しく胸に迫った。美女を助けるためにずいぶんがんばった、と神話を引き合いに出されたのもあったかもしれない。鴎外の生涯についてはざっくりとしか知らないが、都会的で洗練された人だったのかな、という印象。物語から感じる彼の人物像は隙がなく、内にこもった繊細さが魅力的。
読了日:11月16日 著者:森 鴎外
https://bookmeter.com/books/565231

■FMTTM(記念日にショートショートを)
十六夜と大人の男女。読んでいて背中が痒くなってしまった(ごめんなさい)。フィクションの存在だからこそ許されるムードだと思います。
読了日:11月15日 著者:行成 薫
https://bookmeter.com/books/13177438

■詩と真実 (第1部) (岩波文庫)
ゲーテの全四巻からなる自伝・回顧録。第一巻は少年期の回想から描かれている。少年時代に創作したという新パリスからも分かるように、ゲーテは生来のストーリーテラーだったようだ。最初の情熱的な恋は苦く哀しい終わりを迎えてしまったが、身も心も恋に捧げられる性格だからこそ『若きウェルテル…』や『ファウスト』が描けたのだろう。彼の人生録としても面白いが、その当時の政治情勢や文化について非常に詳しく書かれており、本書はそのような記録としての価値も高いのではないか。
読了日:11月15日 著者:ゲーテ
https://bookmeter.com/books/2884

■風が強く吹いている (新潮文庫)
箱根駅伝というのは不思議な競技だなと思う。走っている瞬間はひとりだが、走りついた先には仲間がおり、襷をつながなければ先には進めない。個人プレーでありながらチームプレーであり、チームプレーでありつつも個人としての資質が強く試される。独りよがりで周囲を恃みにしない質の主人公が、やがて仲間を得、彼らとどのようにして美しい景色をみつけるか。たった一度の箱根駅伝にかける熱意が伝わり、先を読み進めずにはいられなかった。物語の行方がなぜ走り続けるのか、その答はいつか見つかるのだろうか。
読了日:11月14日 著者:三浦 しをん
https://bookmeter.com/books/578430

■ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫 ホ 5-3)
”書淫”ボルヘスと友人カサーレスが共に編んだ怪奇譚集。お馴染み荘子の『胡蝶の夢』や、千夜一夜物語の一篇、神話や伝承などなど、引用元のレパートリーは非常に広く、よくもまあこんなに集めたものだと感心する。フィクションだけかと思いきや、意外にも歴史上の逸話が多いことに驚かされた(史実と見せかけた創作もあるらしいが)。印象に残る話はたくさんあったが、一番面白かったのはカフカの『セイレーンの沈黙』。オデュッセウスのあのエピソードに、新たな印象を得た。
読了日:11月13日 著者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス,アドルフォ・ビオイ=カサーレス
https://bookmeter.com/books/12751712

■パパの日
父親の遺品を整理していると出てきたものは……。子供騙しのごまかしをした主人公にも、それを知りながら大切に取っておいた父親にも、お互いを思いやる優しさが感じられる。じわじわと広がる喪失感にしばらくは悲しく胸を痛めるかもしれないが、時間とともにその痛みが癒えれば、あとは幸せな思い出が生涯主人公を支えるに違いない。
読了日:11月12日 著者:木下 まさき
https://bookmeter.com/books/12967241

■7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT(5) (ヤンマガKCスペシャル)
「創造の燃料はきっと人生の苦しみ、それと楽しみだ。この両輪が俺のペンを軽やかに走らせるのさ」良いセリフだ。この作品のシェイクスピア劇は、7人の(あるいは8人の)人生の苦楽によって作られている。足掻き苦しみつつも、彼らには楽しみと幸せがあり、それがゆっくりと回転しながら創造へ繋がっている。創造とは人生そのものなのかもしれない。司教狩りの嵐が吹き荒れるなか、二大巨頭海軍大臣一座とストレンジ卿一座の劇場戦争が勃発。果たしてどちらに軍配が上がるのか。
読了日:11月12日 著者:ハロルド 作石
https://bookmeter.com/books/12864966

■ホテルカクタス (集英社文庫)
ホテル カクタスというアパートに住むとある三人、健康おたくで身体を鍛えるのが好きな「きゅうり」と文学肌の「帽子」、そして割り切れないことが大の苦手な数字の「2」。彼らのなんということのない日常を描く、すこし不思議な物語。彼らはいったい何のメタファーなのだろうと考えてみたりもしたが、さておきこの柔らかいのにひんやりとした読み心地の物語世界は癖になる。最後の一文はやはり切ない。彼らが集まれば、そこに住んでいたころのことは語り合われるだろうが、しかしあのアパートは、もうどこにもないのだ。
読了日:11月11日 著者:江國 香織
https://bookmeter.com/books/562784

■帳簿の世界史 (文春文庫 S 22-1)
歴史の影に、帳簿あり。注目されることはあまりないが、見ればその時代、その国がどのように発展し、また衰退していったのか手に取るように分かる。だからこそ帳簿を重宝する国家は栄えるし、逆に「嫌な事実を見たくない」とばかりに遠ざけた国家は破綻していく。キリスト教社会であったヨーロッパの歴史においては、政治を紐解こうとすれば自然と宗教にも触れることになる。これまでなぜ高利貸しが忌み嫌われていたのか不思議に思っていたが、本書でその点も丁寧に解説されており、疑問がひとつ解消した。
読了日:11月10日 著者:ジェイコブ・ソール
https://bookmeter.com/books/12688856

■7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT(4) (ヤンマガKCスペシャル)
すでに使い古されたネタである『ヨークランカスター両名家の戦い』に、いかにして新たな命を吹き込むか。新たな仲間であるロビンを加え、シェイクスピア一行は芝居作りに磨きをかける。最初は引き気味だった観客たちから次第に受け入れられ、最後は拍手喝采を浴びる様には込み上げてくるものがあった。ようやく彼らはスタート地点に立てたということなのだろう。シェイクスピアにとっては鬼門のマーロウに、ついに目をつけられてしまったが、果たして二人はどのような攻防を繰り広げるのか。
読了日:11月09日 著者:ハロルド 作石
https://bookmeter.com/books/12648939

■青年 (新潮文庫)
青年による世界を見渡す真摯な視線、飽くなき思索に満ちた物語。まず事象があり、それに対する生の感情があり、そして考察がある。そのプロセスが丹念に描かれており、学者気質というか、研究家肌な感触を得た。若さと瑞々しさがありつつも、あまり危うさを感じないのは、地に足のついた思考が文章として形になっているからかもしれない。鴎外の作品は10代のころ挑戦したことがあったのだが、当時のわたしには難しくてすぐに挫折してしまった経験がある。いまは大分読めるようになったので、他の作品も読んでみたい。
読了日:11月09日 著者:森 鴎外
https://bookmeter.com/books/547700

■蝶々と戦車・何を見ても何かを思いだす―ヘミングウェイ全短編〈3〉 (新潮文庫)
後期に書かれたものを中心に編まれた短編集。表題作のほか、『だれも死にはしない』『汽車』などが印象に残っている。戦争に関わる作品には実感がこもっており、当事者ならではの見え方や哲学があるように感じられた。本筋とはずれてしまうのだが、『だれも死にはしない』で垣間見えるジャンヌ・ダルク像が、わたしにとってはしっくりくるものだった。ある瞬間、非常な自信と希望に満たされるジャンヌとマリアだが、結局のところ、それをどうしても持たねばならないという悲壮な背景があり、強い不安と絶望によってそれらは生まれたのかもしれない。
読了日:11月08日 著者:アーネスト ヘミングウェイ
https://bookmeter.com/books/376721

■象工場のハッピーエンド (新潮文庫)
村上春樹の短編、エッセイと安西水丸のイラストが合わさった一冊。互いに示し合わせていたわけではないが、なんとなくカティーサークを書(描)いていたという対談を読み、気の合う二人なのかなと思った。文は『カティーサーク…』『ある種のコーヒーの飲み方について』などが気に入っている。絵は文の内容に直接関連付けられてはいないのだが、不思議と世界観が合致している。レトロでカジュアルでファンタジックな、わたしの知らない時代の匂いが一冊に閉じ込められている。読む人が読めばノスタルジーを感じられるのではないだろうか。
読了日:11月07日 著者:村上 春樹
https://bookmeter.com/books/564902

■7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT(3) (ヤンマガKCスペシャル)
脚本も演出も完成度は高いものの、観客はリチャード三世の突飛でグロテスクなキャラクターについていけず、評判は最低。2度の公演で打ち切りになってしまうが、認める人はとことん認める。以前聞いた話では、良い作品ほど評価は割れるものらしい。リチャード三世もそのようなタイプであったのかもしれない。新人役者のロビン、不器用だがなかなかの慧眼の持ち主で、今後の活躍が気になるところ。
読了日:11月06日 著者:ハロルド 作石
https://bookmeter.com/books/12348126

■ダ・ヴィンチ・コード(下) (角川文庫)
状況は目まぐるしく変わるが、中弛みせず最後まで面白いまま着地させられるのはさすが。暗号を解き、ダ・ヴィンチの残したメッセージを理解し、その場所へと到達する、まさに聖杯探求をやり遂げてみせたラングドン。大抵この手の主題は目標が偽物だったとか、到達したとたんに消えてしまうだとか、それはあなたの中にすでにあるだとか、夢は夢のまま終わってしまうのがセオリーだが、きちんと実感として得られる結末に落とし込めたのは感心した(個人的にはスピリチュアルに走る展開も好き)。大団円を迎えられてよかった。
読了日:11月06日 著者:ダン・ブラウン
https://bookmeter.com/books/572396

■ダ・ヴィンチ・コード(中) (角川文庫)
(再読)過去に読んでいたのがそのまま自分の知識として刻み付けられていたのか、「最後の晩餐」の絵に関する問いかけにほぼ全正解できて心地よかった(わざとそのような演出をしているのかもしれないが)。変わり者だがこの分野を知悉するティービングを味方につけ、真相に迫ろうとするラングドンだが、思わぬ伏兵の暗躍で事態はふたたび混乱する。シオン修道会、テンプル教会の秘密、そして聖杯とはなにかという命題。著者の謎が謎を呼ぶ展開、探究心と好奇心を刺激するストーリーテリングは本当に上手い。下巻へつづく。
読了日:11月05日 著者:ダン・ブラウン
https://bookmeter.com/books/572395

■ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)
10年ぶりに再読。ルーブル美術館の館長、ジャック・ソニエールの奇妙な死。前作と同様、わけもわからないままラングドンは事件に巻き込まれていく。美しいヒロイン役ソフィー、保守的で頑迷な刑事、色素欠乏症の不気味な暗殺者シラスなどなど、キャラクターの立った登場人物が多く、小難しい宗教、図像解説をまるっと読みやすくさせている。逆にエンターテイメントに振り過ぎているきらいもあるが、このシリーズはそれが持ち味だと割り切っている。逃亡しつつ事件の真相を追うラングドンの行く末から目が離せない。中巻へつづく。
読了日:11月04日 著者:ダン・ブラウン
https://bookmeter.com/books/572394

■山ソムリエ
この企画のショートショートは結構読んできたが、くだらなさでは群を抜いている。なのにちょっと笑えてしまう。くだらなさも一周回れば芸になるのだなと感心してしまった。ヴォネガットが作った物語の類型(主に主人公の幸福感がどう動いているかをグラフ化したもの)というのを以前見たことがあるのだが、ヤマなしオチなしの物語(なにが幸福かわからない)をハムレット型と命名していた。ハムレット型の物語、結構好きです。
読了日:11月03日 著者:木下まさき
https://bookmeter.com/books/13093410

■7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT(2) (ヤンマガKCスペシャル)
良家の出ゆえに家事は苦手で「あれで器量がよければ」とワースに零されるくらいのアンだったが、音楽の才能がシェイクスピアの劇に映えるに違いないと見込まれる。ついに脚本を買われたシェイクスピア、ランスという仮名を脱ぎ捨てた瞬間にはグッと込み上げてくるものがあった。『ヴェニスの商人』ではなくマニアックな『リチャード三世』でキャリアをスタートさせようと決めたシェイクスピアだが、マーロウを上回る芝居ができるのか。次巻へつづく。
読了日:11月03日 著者:ハロルド 作石
https://bookmeter.com/books/11958163

■ヴィヨンの妻 (新潮文庫)
人間社会に嫌気がさすような物語世界。きちんと読めばわかりますよね?というような文章を途方もなく曲解し、文句を投げつけてくる人というのはよく見かけるが、そのような人に対する配慮を作中で皮肉げにしてみせるのを読んで「太宰の時代にもいたのか」と感心した。きっといつの世にもいる。道徳からかけ離れた人々(人から物を巻き上げる、仮借なく批判する、盗む)との人間模様は、自分ならば一刻も早く逃れたいと願いたくなるが、そのような感覚ごとひっくるめて、ユーモラスに書ききってしまう太宰の筆力に脱帽する。
読了日:11月02日 著者:太宰 治
https://bookmeter.com/books/566625

■ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (ハヤカワ文庫 SF 464)
ありあまる財力を持つローズウォーター氏とその一族の物語。そのありがたみも、与えられることの意味も分からないような人々にまで施しをする主人公。最後は「精神がおかしくなっているのではないか」とまで言われる始末だが、無責任で滑稽で、なんとも間の抜けた人々に対する惜しみない優しさを振りまく彼は、神々しさまで感じられる。”キじるし”と無垢なまでの”博愛”、限りない”寛容”は紙一重のものであるのかもしれない。ヴォネガットの宗教観(キリストに対するイメージ)が織り込まれているのだろうか。
読了日:11月01日 著者:カート・ヴォネガット・ジュニア
https://bookmeter.com/books/579412


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