2018年9月の読書まとめ

2018年9月の読書メーター
読んだ本の数:40冊
読んだページ数:10951ページ
ナイス数:1550ナイス

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■7人のシェイクスピア 3 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
(再読)故郷の人々から忌まれ、傷つけられ、捨てられ、それでもなお彼らを愛していたリー。しかし、彼らは雨によって押し流され、この世から土地ごと永遠に失われてしまった。大きな喪失であるはずなのに、決して挫けず新たな場所で生きようと思えるリーの強さには感服する。芝居で勝負をすることになったランスとクレタ。富と権力の前に彼は形の上では負けてしまうが、また新たに道が拓ける。ここで初めて登場する「シェイクスピア」の名前。何やら登場人物全員に秘密があるようだ。
読了日:09月30日 著者:ハロルド 作石
https://bookmeter.com/books/2023616

■ダーク・タワー〈4〉魔道師と水晶球〈下〉 (新潮文庫)
ローランドの長い長い回想と、喪失の物語が終わる。話し終えたあと、ローランドが安堵する様子にはこちらもつられ、またスザンナの「あんな経験をたったの14歳でしていたなんて」と悲しみを表す場面には共感を覚えた。重々しい口調と大人びた人柄につい惑わされがちだが、まだほんの子どもだった彼がまるで魂を切り裂かれるような思いをしたことを考えれば、硬く窺い知れない男に成長するのもやむを得ないように思える。後半からのテーマは『オズの魔法使い』。みんな揃って赤い靴を打ち鳴らす様子を想像すると、ちょっと微笑ましい。
読了日:09月30日 著者:スティーヴン キング
https://bookmeter.com/books/548760

■ダーク・タワー〈4〉魔道師と水晶球〈中〉 (新潮文庫)
お互いを意識しあいながらも、一度は反発し、ときには強く憎むということを経て、雪崩れ込むように恋に落ちるローランドとスザンナ。これは、少年だった彼らが大人になる物語である。「父親の顔を忘れるな」というのは、大人たちが子供に課した掟であり戒めだ。その枠を乗り越え、自らの意思で道を選ぶということは、自分の行動に対し、自身が全責任を負うということ。しかし、その代償は高くつきそうだ。互いを愛したことは避けられない<カ>であるという彼らだが、その結末ですらも<カ>の一部だというのだろうか。下巻へ続く。
読了日:09月28日 著者:スティーヴン キング
https://bookmeter.com/books/548759

■ダーク・タワー〈4〉魔道師と水晶球〈上〉 (新潮文庫)
ブレインとの対決。物事に動じる様子を普段見せないローランドですら絶望を垣間見せるほどの相手を、軽蔑しきって甘く見られているエディがやり込める様には胸がすいた。彼が旅の仲間として選ばれたのは、まさにこのような場面で力を発揮できるからかもしれない。中盤からはローランドの若かりしころのエピソードが展開される。エディからすれば「薄汚いおっさん」の彼も、輝かしいほどに若い時代が(当然ながら)あったようだ。しかし、すでにスザンナとの関係からは破滅的な雰囲気が漂い出ている。不安を抱えつつ、中巻へ。
読了日:09月27日 著者:スティーヴン キング
https://bookmeter.com/books/548757

■7人のシェイクスピア 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
片田舎の教育もろくに受けていないはずの青年と、都会的で洗練された当代きっての偉大な詩人。同一人物であるはずのシェイクスピアの記録は、時期によってはまるで別人のようである。空白の年月のあいだ、彼はどう過ごしていたのか。本作ではそこに想像を巡らせ創作している。何かに呼び寄せられたかのように、倒れていたリーを助けたシェイクスピア、ことランス・カーター。この出会いによって、後のソネットが出来上がっていく。心を閉ざしていたリーがランスたちによって解放され、また同時にランスたちに影響を与えていく様に心を動かされた。
読了日:09月26日 著者:ハロルド 作石
https://bookmeter.com/books/655738

■地獄変・偸盗 (新潮文庫)
著者短編集。なにやら凄まじい気配のする物語ばかり。無明のなかで繰り広げられる活劇は、炎によって、あるいは月の光によって生々しく、おどろおどろしく照らし出される。芥川の作品に登場する人物たちはみな、罰する側も罰される側も、一様に地獄に住んでいる。別に収録されている『蜘蛛の糸』のお釈迦さまも例外ではないし、おそらくは、この物語を書いた芥川本人もである。芥川の目に映る世界がこんなものばかりだとしたら、そんな世で35年も生きたら「もういいや」となってしまうのも仕方のないことかもしれない、などと思ってしまった。
読了日:09月26日 著者:芥川 龍之介
https://bookmeter.com/books/560742

■レ・ミゼラブル (5) (新潮文庫)
(再読)最終巻。皆自分の信仰のために生き、死んでいく。ジャヴェールの生き方はあまりにも信仰に誠実すぎて、だからこそ純粋で、折れやすい。コゼットが結婚してからのジャン・ヴァルジャンは、わたしの感覚からすると卑屈すぎるのでは、と思わないでもないのだが、ずっと不幸に身を浸してきた人間にとって、人並み以上の幸せというものは眩しすぎ、おそろしいものなのかもしれない。身を削り、犠牲にしながら生きてきた彼が最後に報われる場面では、やはり涙が出た。大満足の読後感。
読了日:09月25日 著者:ユゴー
https://bookmeter.com/books/429470

■ローマ亡き後の地中海世界4: 海賊、そして海軍 (新潮文庫)
シリーズ最終巻。地中海を取り巻く国々のパワーゲーム、そしてマルタ島とキプロス島で行われた最終決戦。大きな感動やカタルシスのようなものは、残念ながらわたしには感じられなかった。ただただ長く哀しい戦いの歴史に、ようやく一区切りついたという安堵が大きい。結局は古代ローマへの懐古で締めくくられるのだなと思ったが、その後、世界はルネッサンスを迎えるのだからさもありなんと言うべきだろうか。関連書籍が多く取り上げられており、そちらもいずれ読んでみたい。
読了日:09月24日 著者:塩野 七生
https://bookmeter.com/books/8221161

■7人のシェイクスピア 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
(再読)「わが骨を動かす者に呪いあれ」と遺した詩人シェイクスピア。彼は一体何者だったのか。女王に召し抱えられ、イングランド中にその名が轟くようになるまでの年月を描く。第1巻の舞台はハムレット発表の13年前のリヴァプール。チャイナタウンで生活する美しい娘リーが、いかにしてシェイクスピアと出会い、その運命を交わせていくのか、この巻ではまだ分からない。しかし、彼女の中にあるこのダイナミックで霊的な何かが他人を影響せずにはいられないことは間違いない。
読了日:09月24日 著者:ハロルド 作石
https://bookmeter.com/books/586344

■マギンティ夫人は死んだ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
スペンス警視からもたらされた、謎の残る殺人事件の究明に乗り出したポアロ。久しぶりに冒頭からポアロが活躍。過去の殺人が深く関わるこの事件は登場人物が多く、相関図を頭の中に描き出すのが少々難しかった。以前の作品で登場したオリヴァ夫人が再登場したが、なかなか味のあるキャラクター性で印象深い動きをしていた。終盤の「あなたがた女性の勘というのも、あてにならないものでして……」という台詞はクリスティらしい意地悪さが光っている。人を見る目の確かなポアロならではの洞察ともいえるだろうか。
読了日:09月23日 著者:アガサ クリスティー
https://bookmeter.com/books/467116

■ダーク・タワー〈3〉荒地〈下〉 (新潮文庫)
最初はこの物語の主人公たち、アウトローばかりだなと遠巻きに見ていたが、いつのまにか彼らに感情移入していることに気づかされる。スザンナが「もうローランドとジェイクには会えないかもしれない」という予感を口にしたシーンでは「そんなこと言うのやめてよ」とつい熱が入った。一度二手に分かれた仲間たちだが、双方とも九死に一生を得、なんとか合流できたものの、死と背中合わせであることには変わらない。暴走列車ブレインとの心中を防ぐためには、類まれな謎々を生み出さなければならないが、果たしてこの窮地を脱出できるのか。
読了日:09月22日 著者:スティーヴン キング
https://bookmeter.com/books/548756

■ダーク・タワー〈3〉荒地〈上〉 (新潮文庫)
シリーズ第3部。「運命の3人」である彼らが出揃い、ローランドの指導のもと銃の扱いを身につけていくエディとスザンナ。物語の序盤から指を失ったりなんだりと不調が続いているローランドだが、ここに至っては狂気に侵されそうになっているのでいよいよ心配になってくる。1巻で彼が見捨ててしまったジェイクが再び登場してからは、物語がどう転ぶのか目が離せず、一気に読み進めてしまった。ずっと少年の存在が心に引っかかっていた理由は、単に罪悪感からではなく、この冒険にとって必要なピースであったからなのだろうか。下巻へ続く。
読了日:09月21日 著者:スティーヴン キング
https://bookmeter.com/books/548755

■軍靴のバルツァー 11 (BUNCH COMICS)
戦争が終わり、諸々の後片付けに追われるが、バーゼルラントは王政の廃止という大きな決断をする。出自を明らかにする第二王子の姿勢は概ね好意的に受け入れられるが、急な体制改革はやはり難しい。初の国民選挙は、結局第二王子の権力の握り直しのためのパフォーマンスに終わる。ヴァイセン軍人をめぐる暗殺事件の多発、バルツァー の人事問題、そしてついには参謀総長と国王の対決が迫っている。ユーリの決断の行方が気にかかるが、次巻での行動が物語を動かしそうな予感。
読了日:09月21日 著者:中島 三千恒
https://bookmeter.com/books/12808923

■蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)
著者短編集。改めて芥川の作風の広さに感心させられた。幸福な予感をちらつかされ、ハッピーエンドを期待していたら暗転したり。逆に試練から解放され幸福になったり。簡潔な文章で贅肉など一切ない物語のなかには、著者の人生観が凝縮されている。表題作二篇のほか、『蜜柑』『魔術』などが好きだが、秀逸だと感じたのは『猿蟹合戦』。おとぎ話を芥川流に噛み砕き、その後を想像したら……というお話。読み終わったあと、ふっとシニカルな微笑みが漏れる。君たちも大抵蟹なんですよ。
読了日:09月20日 著者:芥川 龍之介
https://bookmeter.com/books/576745

■レ・ミゼラブル (4) (新潮文庫)
コゼットとマリユスはようやくお互いを深く認識しあい、恋に落ちていく。ジャン・ヴァルジャンもジルノルマン氏も、タイプが違うがどちらも分からず屋で、若者ふたりの心情が見極められていない。それも悪意なく、むしろ相手を慈しみたいという思いを持っているにも関わらずにである。一方は経験のなさから、もう一方は豊富すぎる経験から、悲しませ、怒らせる。エポニーヌの薄幸な生涯には胸が痛む。彼女自身は分かりやすく「良い人」ではないのだが、痛々しいほど健気で一途だ。もっと違う時代に生きていたら、別の誰かと幸せになれただろうか。
読了日:09月19日 著者:ユゴー
https://bookmeter.com/books/480002

■軍靴のバルツァー 10 (BUNCH COMICS)
援軍としてやってきたヘルムート。時代の変わり目によって、交わっていたかもしれない人生は別離を迎え、本来交わらざるはずの人生は不思議な邂逅をもたらす。軍制改革がバーゼルラントに訪れなければ、ヘルムートとユルゲンにも彼らが望む形での人生があったかもしれない。しかし、時代の変化は彼らをどうしようもなく遠ざけてしまった。決めてしまったからには進まなければならない。後悔しないと言い切るヘルムートには、自分の納得できる生を全うして欲しい。
読了日:09月18日 著者:中島 三千恒
https://bookmeter.com/books/12006307

■大切な幼馴染み(記念日にショートショートを)
さもあらん、なオチ。関係性を壊したくないから踏み出せないのは二人とも同じだが、視線の方向は一生交わることはないのだろうな、と思うと切ない。
読了日:09月18日 著者:喜多 喜久
https://bookmeter.com/books/12764093

■逆さまゲーム (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
著者短編集。捉えどころのない作風はさすがタブッキ。どれも夢見心地のような、不思議な余韻のある物語だが、表題作が一番気に入っている。フランス語では「夢」、スペイン語では「逆さま」。言葉遊びのなかに迷い込み、主人公は物語の進行に翻弄され、自分の居場所を見失う。しかしそれも、なんということはない物事の裏側であり、彼が、そしてわたしたちが見えていなかった側面でしかないのだ。物語自体、その事実があることによって変化するわけではないが、知ったとき、たしかに印象は大きく変貌する。
読了日:09月17日 著者:アントニオ タブッキ
https://bookmeter.com/books/522656

■真昼なのに昏い部屋 (講談社文庫)
平たく言ってしまえば不倫小説なのだが、構成の特殊さに目を引かれる。夫、不倫妻、不倫相手、ではなく、不倫妻、不倫相手、不倫相手の友人(?)がこの物語の中枢を担っている。語り手は多くのひとたちが暮らす世界の外れた場所で、神的な視点から彼らを観察している。そこに不倫を断罪する厳しさや、逸脱してしまった彼らに対して同情するウェットさは存在しない。3人はアナーキストたちであり、護ってくれるものから見放された存在だ。しかし、ジョーンズの最後のセリフにはなかなか抉られる。共感すら必要ないと突き放されたような感覚。
読了日:09月16日 著者:江國 香織
https://bookmeter.com/books/6304020

■軍靴のバルツァー 9 (BUNCH COMICS)
気球に乗り、上空から指示を出すバルツァーのサポートによって凌いだ士官学校の生徒たち。戦いの後、死体の山のなかでの会談が印象深い。バルツァーはこの世界で戦争の歴史を早める存在であり、その彼は、彼自身の思考を指導者として伝播させている。思考、あるいは思想を広め、伝え、人をそのように動かすことは、リープクネヒトがやってきたことにも類似している。父から離反することを決意したヘルムートがやっと合流したが、戦況はどう転がるか。
読了日:09月15日 著者:中島 三千恒
https://bookmeter.com/books/11205054

■読者の皆様へのご挨拶
別のAI同士にコミュニケーションを取らせてみたら、まったく新しい言語を即座に作り出し、外からは内容がまったく分からない会話をしはじめ、怖くなって研究者たちがシステムをシャットダウンした、という話を思い出した(実話)。自ら考え、分析し、より発展していく。それはすでに人間である。10年後、あるいは5年後には、AI作家の作品が世に出回っているかもしれない。彼らはどんな物語を作るのだろう。急速な進化ぶりには怖さもあるが、読んでみたい。
読了日:09月15日 著者:喜多 喜久
https://bookmeter.com/books/12764123

■ダーク・タワー〈2〉運命の三人〈下〉 (新潮文庫)
圧倒的な没入感に浸りながら読み終えた。彼らはいわば、アウトローの集団である。元薬漬けのエディと、闇の人格によって暴力的な振る舞いをするデッタとオデッタ。彼らを仲間とし、塔を目指すローランドも、決して聖人君子ではない。彼は警察から銃を奪い、銃火器のショップやドラッグストアから品物を奪う。体を乗っ取った相手を死なせるし、仲間となった二人を内心では「時が来れば切り捨てる」と思っている。そんな彼らが、この先どのような運命と共に冒険をするのか、興味が尽きない。
読了日:09月14日 著者:スティーヴン キング
https://bookmeter.com/books/548754

■ダーク・タワー〈2〉運命の三人〈上〉 (新潮文庫)
第一巻は物語の導入部ということで、状況説明に徹している印象だったが、本巻からは物語が劇的に動き始める。ローランドの死にかけながらの道中、最初の仲間の登場。バイオレンスに次ぐバイオレンスで息つく暇もない。「ディド・ア・チック? ダム・ア・チャム?」と、問いかけるように鳴きながら襲い掛かってくるロブスターは不気味で怖い。夢に見そうだ。兄を失ったエディがドアの向こうへ行くことを決め、暗黒の塔へローランドと共に目指すことを決める流れは非常にドラマチック。つい薬を求めてローランドを責めてしまうところも。下巻へ続く。
読了日:09月13日 著者:スティーヴン キング
https://bookmeter.com/books/548753

■軍靴のバルツァー 8 (BUNCH COMICS)
死屍累々の士官学校。ヘルムートとユルゲンのままならない関係が切ない。第一王子派か第二王子派かで分裂するバーゼルラントは、親子同士でも対立せざるを得ない状況に陥る。バルツァーの「感情を捨て理に従う」という生き方は、答の見えない選択肢に迷うときこそ効果を発揮するのだろう。軍人として生きることを決めている彼の人生観は一貫していて、時に冷たく映ることもあるが、潔い。
読了日:09月12日 著者:中島 三千恒
https://bookmeter.com/books/10008184

■第252回「13日の金曜日を消滅させる会議」議事録
13日の金曜日をどのようにすれば消滅させられるか。見識者(のような人たち)が集まってわざわざ知恵を絞り、13日の金曜日をカレンダーから消すことに成功するが……。どのようなものにも畏怖する理由を見つけ、崇めるように、人はどのようなものにも恐怖を見出す。なさそうでありそうな展開。
読了日:09月12日 著者:喜多 喜久
https://bookmeter.com/books/12840461

■河童・或阿呆の一生 (新潮文庫)
著者最晩年の短編集。後世の人間だからこそ言えるのかもしれないが、彼自身の自殺願望が感じられる。『歯車』の最後の一文「誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?」にはぞくりとさせられた。気に入っているのは『蜃気楼』と表題作の一つ『河童』。“「ああ、わたしはどうしましょう? qur-r-r-r-r」(これは河童の泣き声です)”シリアスな場面なのに妙なおかしさを感じられる。それと同時に人間世界のやるせなさ、むなしさ、男に対する哀れを感じないではいられない。胸が苦しくなる作品だった。
読了日:09月11日 著者:芥川 龍之介
https://bookmeter.com/books/560745

■レ・ミゼラブル (3) (新潮文庫)
(再読)マリウスの登場と、コゼットとの出会い。マリウスのコゼットに対する執着心、独占欲が若者らしい。風に揺られ、裾から覗いた彼女のふくらはぎが、誰かに見られたのではないか。自分の影にすら嫉妬してしまうという、制御しがたい熱情。そのように激しく、思い込んでしまいやすい気性が、彼をあのバリケードへの道を開いたのだろう。すんでのところを切り抜けるジャン・バルジャンの強運と、ここぞという場面で登場するジャベール。キャラクターの立ち方が堂に入っている。
読了日:09月10日 著者:ユゴー
https://bookmeter.com/books/480001

■オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)
精神科医の主人公が散歩しながら頭に浮かべている情景。思考は遥か高みから俯瞰し、地べたから仰視し、そして遠望する。詩的に研ぎ澄まされた感覚はすらすらと流れていく風のようだ。彼は物語のなかで、特になにも為さない。さまざまな人の人生が時折交わり、その過程でさまざまな国の歴史が垣間見えるが、彼自身はそれをどうするわけでもない。手に取り、胸のなかにしまい込んでいるかどうかすら定かではない。だからむしろ彼の感覚に信頼が置けるような気がした。作者が影響を受けた作家の一人にバージニア・ウルフを挙げていたことに納得。
読了日:09月09日 著者:テジュ コール
https://bookmeter.com/books/12042427

■ロード・エルメロイII世の事件簿 (2) (角川コミックス・エース)
与えられたヒントは謎かけではなく、ペナルティとして殺すことを宣言する予告状だった。「神秘は神秘であることに意味があり、暴くことはそれを破壊することに他ならない」というのは興味深かった。心理戦、派閥争い、魔術師たちのドロドロとした削り合いが続くが、エルメロイ2世の異端さはやはり目を惹く。その異端さは本来持っていたものなのか、それとも第4次聖杯戦争から学び取ったものがそうさせているのか。(原作は未読)
読了日:09月08日 著者:東 冬,TENGEN
https://bookmeter.com/books/12880624

■族長の秋 (集英社文庫)
独裁者の記憶。彼の内に巣食う、形のない恐れ、孤独、途方もない暴力性、死の気配。それらが余すことなくページを埋め尽くしている。章は分かれているものの、段落を落とさず一息に書き連ねるスタイルにもきっと意味があるのだろう。100年もの長いあいだ独裁者として君臨し、彼の前を多くの命が通り過ぎ、自身はじわじわと衰えていく。その悲しみを知る人は誰もおらず、嘘か真か定かではない噂話が、語り手をくるくると変えながら流布される。それが何よりも独裁者にとっての孤独を表しているのではないか。
読了日:09月07日 著者:ガブリエル ガルシア=マルケス
https://bookmeter.com/books/446300

■中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)
ぬるっとしたシュールさを湛えた短編集。特に『カンガルー通信』はなんじゃこりゃと言いたくなる。商品管理をする主人公が、誤ったレコードを買った女性からのクレームに対し、返信をカセットテープに吹き込んで送る。要約すると「あなたのご要望には沿えません」になるのだが、主人公の長々とした一人語りは嫌がらせ以外の何ものでもない。「村上春樹が書いているから最後までわたしは読むけど、クレームを送った女性がこれを受け取ったら最後まで聞かずに捨てるだろうし、店には二度と行かない」に尽きる。『午後の最後の芝生』が一番好き。
読了日:09月06日 著者:村上 春樹
https://bookmeter.com/books/580054

■ダーク・タワー1 ガンスリンガー (新潮文庫)
長大な作品の導入部。黒衣の男を追い、暗黒の塔を目指すガンスリンガーの旅が描かれている。黒衣の男は何者で、塔にはなにがあるのか、なぜガンスリンガーはそこを目指しているのか、この一冊ではまだなにも分からない状態である。キングの作品は短編集『ミスト』のみ既読。本作を読んでいる途中で知ったのだが、キングの他作品群における伏線が大いに張られているらしく、それらを知らないまま読みはじめたのは時期尚早だったろうか、とすこし後悔。しかし饒舌な語り口につられてあっという間に読めてしまったので、このまま最後まで走ろうと思う。
読了日:09月05日 著者:スティーヴン キング,風間 賢二
https://bookmeter.com/books/1721

■グリーン・デイ(記念日にショートショートを)
自分の意思で人生を決めた日が、「大人になった日」。だとしたら、わたしの場合は就職を決めた日がそうなのかもしれないが、わたしが「わたし自身の人生を選んでいる」と実感したのはもっと先のことだ。振り返ってみて「ああ、あの時が」と初めてわかるが、それをじっと待つ親の気持ちはきっと楽しみでもあり怖くもあるのだろう。
読了日:09月05日 著者:行成 薫
https://bookmeter.com/books/12857273

■川のある下町の話 (新潮文庫)
医学生の主人公と、身寄りのない薄幸な少女をはじめとする三人の女たちの人間模様。戦後まもない時代、都会には大勢の人が訪れるが、むしろそれは個々人の孤独を際立たせる。彼らは若く、生きようとする意欲に満ち溢れてはいるものの、その輝きが強ければ強いほど、誰にでも訪れる死の気配が作品内で濃厚に立ちこめる。これまで読んできた川端作品のなかで、一番死を強く意識させられた。薄幸な少女ふさ子には憐憫の情を誘われるが、桃子のすっとぼけた軽やかさがわたしには魅力的に映る。
読了日:09月04日 著者:川端 康成
https://bookmeter.com/books/514469

■亭主元気で留守がいい(記念日にショートショートを)
熟年夫婦となった織姫と彦星。七夕のお話から想像する二人はどうしても年若いイメージだが、歳を取ったらこうなってしまうのかと思うと面白い。のろけというわけではないのだけれど、そういえば未だに「亭主元気で留守が良い」と思ったことはないかもしれない。もっと歳を取ったらこの感覚がわかるようになるのだろうか。知りたいような、知りたくないような……。
読了日:09月04日 著者:行成 薫
https://bookmeter.com/books/13031332

■レ・ミゼラブル (2) (新潮文庫)
(再読)コゼットとジャン・バルジャンが出会う。ジャン・バルジャンとテナルディエ夫妻の攻防は、派手ではないながらもドキドキする。冒頭100ページにもわたるワーテルローの戦いの模様に、ああそうだったと懐かしく感じられた。初めて読んだころは「物語に直接関係ないのに」といささか退屈した記憶があったが、いまは(やはり退屈には感じるが)この物語を描くうえでは必要なファクターであることがわかる。直接関係なくとも、書かなくてはならない。なぜならば、この時代に生きる人々にとって重大な問題は、戦争と無関係ではないからだ。
読了日:09月03日 著者:ユゴー
https://bookmeter.com/books/480000

■人形式モナリザ Shape of Things Human (講談社文庫)
シリーズ2作目。1作目の衝撃を引きずりながらだったが、本編の人々はなんとも飄々と、淡々と物語を紡いでいく。ある一族に黒々と絡まる、複雑な因縁の糸。「最初から分かっていた」という紅子と保呂草の推理に、最後まで翻弄された。個人的には肝心のミステリ要素よりも、紅子と林、祖父江の関係性から目が離せなかった。紅子も祖父江もキャラクターとして非常にアクが強く、いまのところまだ確たる像がわたしのなかで上手く結べず、それが一層興味深く感じられる。3人のなかで一番罪深いのはやはり林なのかな、と女のわたしは思ってしまった。
読了日:09月02日 著者:森 博嗣
https://bookmeter.com/books/566921

■黒執事(27) (Gファンタジーコミックス)
あの惨劇の夜から、いかにして悪魔と契約し、現在に至ったのか。これまでもシエルとセバスチャンとの出会いは描かれてきたが、全てではなかったらしい。どうも後付け設定なのではないかと思ってしまったのだが、この過去があるとないとではシエルの背負った十字架の重みもかなり違ってくる。立場が人を育てると言うように、現在のシエルは幼かった日々と比べれば見違えるほどに強く成長したが、「彼」の登場でどのように変化するのだろうか。
読了日:09月02日 著者:枢やな
https://bookmeter.com/books/12923583

■シューセン記念日
猫たちから見た人間の不思議な生態。繰り返すべきではないと分かっていながらも、なぜかその決断をしてしまう人間たち。人間も猫のようにシンプルに生きていければ傷つくことも少なくなるのだろうが、なまじ複雑な社会性を持ってしまったばかりに、我々は自らのそれに苦しめられる。
読了日:09月01日 著者:行成 薫
https://bookmeter.com/books/13102378

■猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)
コミカルでシュールでシニカルな幻想に、呑み込まれたと思ったらいつのまにか物語は終わっていた。宗教のバカバカしさ、白鯨のイメージ、ギリシャ神話的モチーフ。ふんわりしているのに、底に横たわっているのは激しく痛烈なメッセージだ。わたしが「おもしろい」と感じた部分は、あくまでこの作品の表層的な部分でしかない。複雑で入り組んだなにかを全て汲み取るには、まだまだ教養が足りないようだ。読み終わってから改めてカバーイラストを見ると「ははあ」と納得する。「猫なんていないし、ゆりかごもないんだ」
読了日:09月01日 著者:カート・ヴォネガット・ジュニア
https://bookmeter.com/books/579411


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