2018年8月の読書まとめ

2018年8月の読書メーター
読んだ本の数:40冊
読んだページ数:11055ページ
ナイス数:1843ナイス

https://i.bookmeter.com/users/584290/summary/monthly
■いただきます(記念日にショートショートを)
ものを食べるということは、他の命をいただくということ。生と死の瀬戸際で、主人公は生き延びるために襲いかかってきた熊を撃つ。普段改めて考える機会はあまりないが、わたしたちは常に犠牲を積み重ね、その上で自らの人生を引き延ばしていることを忘れてはならない。
読了日:08月31日 著者:行成 薫
https://i.bookmeter.com/books/13095103

■金田一耕助、パノラマ島へ行く (角川文庫)
『金田一耕助、パノラマ島へ行く』『明智小五郎、獄門島へ行く』二編収録。金田一耕助がもしも”パノラマ島”へ行ったら、明智小五郎がもしも”獄門島”へ行ったら……。それぞれが解決した代表的な事件の舞台となった場所で起こる、新たなる事件。二人以外にも名脇役であるキャラクターたちが登場したり、名場面をふと思い出したりと懐かしい気持ちにさせられた。ずっと以前に読書メーターで見かけて面白そうだなとメモしていたのだが、読んでみて初めてシリーズものだということを知る。他の作品も読んでみたい。
読了日:08月31日 著者:芦辺 拓
https://i.bookmeter.com/books/10536199

■せっかちな夫
せっかちな夫はなにもかも置いてきぼりにしていってしまったが、73年ものあいだ待ち続けていた。再び二人がともに過ごせる時が訪れることを。当事者にとって、この日はやはり特別な思い入れがあるものだろうことは想像に難くはないが、リアルタイムで生きていた者だけでなく、彼らの子や孫にも少なからず感慨深いものを呼び起こさないではいられない。大切なのは語り継ぐことである。また同じことを繰り返し、悲しみを増やすことがないように。
読了日:08月30日 著者:神家 正成
https://i.bookmeter.com/books/13102564

■赤い靴の誘惑―(株)魔法製作所 (創元推理文庫)
シリーズ第2弾。前作で魔法の存在を知り、新たな環境に踏み込みつつも、やはり「普通が一番」と思うケイティ。ところがテキサスから様子を伺いに両親がやってきたり、付き合い始めたばかりのイーサンとは上手くいかなかったりと、波乱に満ちている。このテンションのアップダウンにはわたしなら疲れてしまいそうだが、渦中にいるときは台風の目のなかにいるように、それなりに冷静でいられたりするのかもしれない。ラストはハッピーな進展があったが、意外に早かった印象。次作もまたはらはらが待ち受けているのだろうか。
読了日:08月30日 著者:シャンナ スウェンドソン
https://i.bookmeter.com/books/574753

■古都 (新潮文庫)
京都を舞台に生き別れとなった双子の姉妹の運命を描いた物語。冒頭のすみれの描写からとにかく引き込まれる。京都の移ろいゆく季節、観光名所や年間行事の様子などは、実際に京都を訪れたときのことを思い出し、心愉しく感じた。だが内容何如よりも、川端康成自身によるあとがきに圧倒されてしまった。当時服用していた薬の作用で終始眠く、夢心地のまま書いたため、執筆当時の記憶がほとんどないという。こんなにも滑らかな筆致で、美しくもどこか危うい世界観を、半分寝ながら書けてしまう著者はいったい何者なんだろう(文豪です)と恐れ入った。
読了日:08月29日 著者:川端 康成
https://i.bookmeter.com/books/559916

■上を向いて
日本航空便墜落事故に慰霊を込めて。犠牲者も遺族も、事故についてはもうどうすることもできない。それは本人たちには防ぎようのない不幸なのだ。遺された者にできるのは、ただ生きることだけである。上を向いて、できることならば幸せであるように。
読了日:08月29日 著者:神家 正成
https://i.bookmeter.com/books/13095333

■誓い
勘当されて以来だった父の死には、不審な点が……。後妻をめぐるいわくありげな噂と、キャラクターたちの思わせぶりなバックボーンを読むにつけ、長編刑事小説になっても面白そうだと思った。シリアスから一転した最後の落とし方、長編ならなおさら効いてくるのでは。
読了日:08月28日 著者:谷口 雅美
https://i.bookmeter.com/books/13095579

■レ・ミゼラブル (1) (新潮文庫)
(再読)どんなに性根が善良な人間も、置かれた環境が劣悪ならば簡単に人間性は捻じ曲げられてしまう。貧困、飢え、愛情の枯渇。舞台は第二次帝政を迎えようとしており、より良い世界を目指そうと時代は動き出してはいるものの、物語の主役たちはみなそれらに苛まれ、苦しみもがいている。高校生の時に読んで以来ずっと好きな作品だったが、いま改めて読むと、キャラクターたちの綿密で骨太な造形に圧倒される。小説のなかで、これらはたしかに呼吸をし、変化し成長しながら読者に訴えかける。この世界にはなにが足りず、なにが必要であるのかを。
読了日:08月28日 著者:ユゴー
https://i.bookmeter.com/books/479999

■悲劇週間
明治から昭和にかけて生きた詩人であり歌人(わたし個人としてはルパンシリーズなどを手がけた翻訳者として認識していた)堀口大學の青春時代を描いた物語。与謝野晶子や石川啄木など、名だたる歌人・詩人たちと共に生きた彼の若き日は、ロマンスに満ちている。とはいえ決して浮ついているわけではない。時代は変革のときを向かえ、登場人物たちは否応なく激動に呑み込まれていく。ハードボイルドに徹した戦争に関する叙述があるかと思えば、大學の詩人らしい、詩的な表現を駆使した心理描写もあり、とにかく「巧みである」という印象。
読了日:08月27日 著者:矢作 俊彦
https://i.bookmeter.com/books/389242

■天使と悪魔 (下) (角川文庫)
(再読)解決編。謎解きとアクション、スリルが上手く調和しており、最後まで飽きさせない。宗教が絡むとどうしても説教くさく感じてしまうものだが、非クリスチャンとしてはエンターテイメントとして楽しく読めた。宗教によって人生を狂わされた者と、救われたものの対比が興味深い。彼らの関係性が明らかになるとそれはさらに味わい深く、またアイロニーに満ちている。科学が発達すれば神の存在は希薄になるかと言われるとそうでもなく、科学がまた新たな宗教になるのかもしれない。人は生きる限り、どこにでも神を見出す。
読了日:08月26日 著者:ダン・ブラウン
https://i.bookmeter.com/books/574148

■天使と悪魔 (中) (角川文庫)
(再読)予告された殺人を追うため、ラングドンとヴィットリアは暗号を手がかりに奔走する。上巻はキャラクター紹介や状況説明などに割かれていたためか、物語進行はゆっくりと感じていたが、ひとつ目の殺人が明らかになってからのスピード感は快い。このシリーズで良いなと感じるのは、事件を追うラングドンと共に観光名所を周れることだ。ラファエロの墓や礼拝堂、博物館や美術館。いつか行ってみたいと憧れる。もちろん、人命がかかった事件が起こっているので、キャラクターたちは観光どころではないのだが。下巻へ続く。
読了日:08月25日 著者:ダン・ブラウン
https://i.bookmeter.com/books/574149

■天使と悪魔 (上) (角川文庫)
(再読)ハーヴァード大の図像学者であるラングドンの元にかかってきた、一本の電話。残酷に傷つけられた遺体の写真には、信じられない文字が……。シリーズを追うことをすっかり忘れていたが、最近新作をみかけたので10年以上ぶりに再読。多感な時期に読んだので、次々と解説される神秘に圧倒され、世界には知られていないことがこんなにあるのかという驚きがあり、もっと知らない世界を覗いてみたいという好奇心を擽られた。今読むとどの程度鵜呑みにして良いのかと慎重な姿勢になってしまうので、時の流れを感じてしまった。中巻へつづく。
読了日:08月23日 著者:ダン・ブラウン
https://i.bookmeter.com/books/575753

■眠れる美女 (新潮文庫)
著者短編集。やはり表題作『眠れる美女』のインパクトが強い。決して目を覚ますことのない女の横で、老人もまた何もせず眠る。破ってはならない掟に躊躇しつつも、まるで死んでいるかのような美女の寝姿に見とれ、愛玩する老人たち。ありていに言ってしまえばネクロフィリーというアブノーマルな性癖の披露に他ならないのだが、著者の紡ぐ物語のなかでは、生(性)と死というものに対する高尚な芸術と哲学になる。それとはまた別に、わたしはこの怪しい宿の女主人の正体が気になってしょうがなかった。一体何者で、なぜこんな商売を始めたのか。
読了日:08月21日 著者:川端 康成
https://i.bookmeter.com/books/570720

■八月の光 (光文社古典新訳文庫)
未婚のまま子を宿し、子の父親を追って旅をするリーナ。黒人と白人のあいだに生まれた、クリスマスという名の労働者。彼らは社会から排斥され、のけ者にされようとしている。アイデンティティーというものは、生きていくための土台となるものだ。それがはっきりしない者にとって、世界は厳しく、あまりにも残酷である。フォークナーの観察眼の鋭さにもドキリとさせられた。人は自立して生きていくには社会に参画しなくてはならないのに、弱い人々には発言権がなく、影響力は少ない。そのような矛盾は、今この時代にも確かに存在する。
読了日:08月19日 著者:ウィリアム フォークナー
https://i.bookmeter.com/books/12848735

■新九郎、奔る! (1) (ビッグコミックススペシャル)
時代は応仁の乱が始まる少し前。心根の真っ直ぐな少年新九郎(千代丸)だが、長じて大人の世界に踏み込み始めると、途端に政治的で陰謀めいたものを目の当たりにしていく。政敵を下したかに思われた伯父が、一夜にして形勢を逆転され、伊勢家存亡の危機に直面する。目まぐるしく変わる情勢では、まさに「考え続けないと生き抜けない」。ぼんやりしていてはあっという間に命を落としてしまうのだという緊迫した当時の空気に、新九郎とともに呑まれていく。次巻も波乱の予感。
読了日:08月18日 著者:ゆうき まさみ
https://i.bookmeter.com/books/12920255

■激しく、速やかな死
フランス革命前後を舞台とした短編集。放埓さで悪名高いサド侯爵が語り手となった『弁明』をはじめ、さまざまな人物の視点から描く時代の暴力性、陰惨さ、退廃への憧憬が詰め込まれている。サド侯爵は誰が書いてもどこか幼稚で、ボケている印象。まるでフィクションのなかの人物のようなのに、この濃いキャラクターが史実の存在であるのだから、事実は小説より奇なりというのは本当だとしみじみ思う。『戦争と平和』は未読なのだが、熊のミーシカの視点から語られる『アナトーリとぼく』は面白かったので、俄然興味が湧いた。
読了日:08月18日 著者:佐藤 亜紀
https://i.bookmeter.com/books/562583

■ミスト 短編傑作選 (文春文庫)
キング初読。普通に過ごしていても、なんとなく「嫌な予感」を察知するすることがある。わたしの場合「この後転びそうだな」とか「大事なものを家に忘れてきたかもしれない」とかとりとめのないもので、体感としては8割くらい当たってしまうものなのだが、本書にもその8割当たってしまう最悪の予感がふんだんに散りばめられていて、読みながら「怖いのが来るな」とドキドキしながらページを繰った。まさにホラー映画を見ている感覚。『ほら、虎がいる』『ジョウント』が気に入っている。そのうち長編にも挑戦してみたい。
読了日:08月17日 著者:スティーヴン キング
https://i.bookmeter.com/books/12758705

■天の川よ、悠久なれ
対岸に一番近い場所を求めて歩き続ける彦星は、永遠に川沿いをさまよい、やがて、かつて旅立った若い自分の背中を見つける。七夕のショートショートのなかでは本作が一番好き。一年に一度しか会えなくなってしまったきっかけが織姫の失敗(天帝は1ヶ月に一度と言ったのに、織姫は一年に一度と聞き間違えたという説)ならば、永遠に続くかのような放浪を強いられるのは、制約を潜り抜けようとした彦星への罰か。
読了日:08月16日 著者:木下 まさき
https://i.bookmeter.com/books/13031310

■なつのひかり (集英社文庫)
現実と幻想のあいだを行き来する、すこしシュールな長編小説。幻想的なパートははっきりと「幻想的だな」と感じるが、本作は現実を描いていてもなんだか嘘のようなことが公然とまかり通っていて(これは著者の作品にはよくあること)、狐につままれているかのような読み心地だった。ヤドカリのナポレオン、二人の妻と愛人を持つ兄、フランスへの冒険。こういう世界も書くのか、と新しい発見だった。飄々ととりとめなく、あるがままに流れていくけだるい夏の空気。出口のない夕暮れが永遠に続いていくようだ。
読了日:08月16日 著者:江國 香織
https://i.bookmeter.com/books/562783

■接触 (角川文庫)
肌に触れることによってその人間に憑りつくことができる存在『ゴースト』。宿主を殺されたケプラーは、事の真相を追いはじめる。「愛されること以外に、ゴーストはなにも望まない」。ゴーストはみな、自分自身の肉体を失っている。他人の身体に入り、他人になりすましても、乗り換えれば自身が成した全てがその宿主のものとなる。栄光も名誉も、時間が過ぎ去ってしまえば空しい。しかし愛があれば、仮初の存在ではないという大きな肯定がなされるのではないか。どんなに優れた力を持っていても、たった一人で生きられる人はいない。
読了日:08月15日 著者:クレア・ノース
https://i.bookmeter.com/books/12791795

■聖☆おにいさん(15) (モーニング KC)
カインとアベルの殺人事件、推定無罪なのでは?という話が面白い。「そもそも人類創生直後だから、どう頑張ってもキャラクターが4人しかいない(アダム、イヴ、カイン、アベル)」「カインだけ人物紹介が圧倒的に不穏になる」「でも、これ推理小説だったら逆にカイン絶対シロだよね?」確かになあと笑ってしまった。でもその推理小説、クリスティが書いたら間違いなくカインが犯人にされると思う。(そもそもカインが100%クロです)
読了日:08月14日 著者:中村 光
https://i.bookmeter.com/books/12849592

■みずうみ (新潮文庫)
偏執的でフェティッシュな心理描写。時間の流れもキャラクターそれぞれの境界も曖昧になり、滑らかな筆致によって妖しく幻想的に炙り出されていく。誰にでも胸を張って言えないような隠しごとのひとつやふたつは持っているだろうが、それが実に叙情的に、芸術的な形に昇華されている。それをどんな心持ちで受け止めてよいのか、わたしにはまだ判断できない。ただ、著者がたびたび書く一瞬の邂逅に対する憧憬や恋しさ、切なさには、なんとなく心惹かれる。
読了日:08月14日 著者:川端 康成
https://i.bookmeter.com/books/534152

■デイヴィッド・コパフィールド〈4〉 (新潮文庫)
最終巻。デイヴィッドにとって馴染み深い人々が、時間の流れと共に去っていくという寂しさもあるが、それが全てではない。長い人生のなかで時おり起こる、大きな嵐や波乱も、決して終わらないわけではないのだ。ユライア・ヒープは最後まで嫌な奴で、元継父と伯母は相変わらず嫁になった人をいじめている、というブレなさも、一周回って愛嬌のように感じられるから不思議だ。アグニスの「出会った時からずっとあなたを愛してた」というシーンがとても良い。愛に満ちたしめくくりで、読後包まれるような充足感が心地よかった。
読了日:08月13日 著者:チャールズ ディケンズ
https://i.bookmeter.com/books/5271

■黒猫の三角 (講談社文庫)
Vシリーズ第一弾。語呂合わせのために被害者が選ばれていると思われる連続殺人。探偵・保呂草が「阿漕荘」の面々と謎に挑む。S&Mシリーズの作品群同様に、こちらも類まれな知性と特異な性向を持つ人物による奇妙な犯行、というモチーフになっており、犯人の犯行動機はやはり共感はしがたい。とはいえ、わたしにも他人からは共感されにくい性向はあり、そこには犯罪に結びつくか否かの違いしかなく、この物語の基準で言えば、それはほんの些細な相違点でしかないのだろう。次作から本シリーズの本番ということになるのだろうか。
読了日:08月12日 著者:森 博嗣
https://i.bookmeter.com/books/566915

■七夕への誘い
なんともほろ苦い七夕。落ちるところまで落ちた男に、昔懐かしい女性からの手紙が届く。甘酸っぱい思いを抱きながら呼び出された場所へ行ってみると……。親に思い出の人から送られてきた手紙を読み上げられるところを想像したが、その時点でもう耐えられない、と本題とは違うところで引っかかってしまった。上げて落とされるダークな雰囲気はオー・ヘンリーっぽさが良く出ている。『二十年後』は読んだ記憶があるが、内容をすっかり忘れてしまったので後で読み返したい。
読了日:08月11日 著者:誉田リュウイチ
https://i.bookmeter.com/books/13031894

■運命と復讐 (新潮クレスト・ブックス)
電撃的に出会い、駆け落ちをしたロットとマチルド。誰もが羨むような結婚は幸福かに思えたが、不穏な陰りはいつも二人の間に潜んでいる。正直に言えば、好ましい物語とは思えなかった。しかしそれは、常に怒りを抱き、運命に、あるいは人生に復讐してみせるというマチルドの姿勢から、わたし自身が忘れていた怒りや悔しさを思い出してしまうからかもしれない。激しいその生き様を最後まで見届けてから思ったのは、「わたしはわたしの人生に復讐しなくても良い」ということだ。復讐には怒りが必要で、怒り続けるのはとても消耗するからだ。
読了日:08月11日 著者:ローレン グロフ
https://i.bookmeter.com/books/12244762

■ローマ亡き後の地中海世界3: 海賊、そして海軍 (新潮文庫)
この時代の特に大きなトピックスとして挙げるべきは、やはりコンスタンティノープルの陥落であろう。ありていに言ってしまえば、物語としては面白みに欠ける、というのがこの時代に対するわたしのイメージだが、アンドレア・ドーリアや赤ひげの登場から始まり、地中海を中心に各国の目まぐるしく変わる勢力図や、混沌とした世界に終止符が打たれ、新たな秩序が生まれ始める様は面白く、久しぶりに読み進めるのが楽しくなった。次巻で完結となるが、どのような結びとなるのか。
読了日:08月10日 著者:塩野 七生
https://i.bookmeter.com/books/8221189

■夢印 (ビッグコミックススペシャル)
いつもフラフラと夢をみては失敗し、借金にまみれている父親と、ハラハラさせられ通しだがしっかりしたその娘。母親は他の男と失踪し生活は困窮を極めるが、そこに現れたのは……「おそ松」のイヤミ!?ある一枚の絵画を巡って引き起こされる、ルーヴル美術館での騒動に、誰もが巻き込まれて行く。フランス研究所の所長であるイヤミは、きっとフランスに行くこと自体には興味のかけらもないのだろうなと思う。己の中にあるフランスというものの概念をひたすら夢想し、憧れ続けるということに意味がある。
読了日:08月09日 著者:浦沢 直樹
https://i.bookmeter.com/books/12921696

■七夕
遠い遠い未来では、わたしたちの身近な文化や習慣がなんだかおかしな形で伝わっているかもしれない。逆に、いま現在「そうであるらしい」と伝わっている古い文化や習慣は、当時の人たちが驚くような形になっているということも十分にあり得る。七夕はそんなにドロドロとしたイベントではないですよと教えてあげたい。
読了日:08月09日 著者:蒲原 二郎
https://i.bookmeter.com/books/13035348

■満潮に乗って (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
シェイクスピア作『ジュリアス・シーザー』の一節の意味深な引用から物語は始まる。マリッジブルーに陥ったリンの不安定な精神が象徴するように、登場人物たちが繰り広げるドラマはぎくしゃくとしており、座りが悪い。ストーリーは地味な印象だが、戦争後に様変わりした人々の生活や、それに伴って生まれた不幸など、考えさせられる点は多い。流れに上手く乗れているときは好調でも、いつかは落ちる。終盤の畳み掛けるような展開は、引き潮に遭ったというよりは、乗り切れなくなった波に飲まれていくようだった。
読了日:08月08日 著者:アガサ・クリスティー
https://i.bookmeter.com/books/547226

■伊豆の踊子 (新潮文庫)
著者短編集。一瞬の出会いと別れ、誰かを捜し求めながらさ迷い歩くというモチーフが興味深い。文章のリズムは淡々としており、読み心地は爽やかでさえあるのにも関わらず、物語の底には悲しみや切なさが横たわっている。死んだ元恋人へ綴られた手紙『叙情歌』が印象に残っている。余談だが、以前伊豆に旅行したときに『伊豆の踊子』という品種のバラを植物園で見た。物語の踊り子はどこか儚く脆い印象だが、バラは溌剌とした生命力を湛えた黄色をしていた。凛とした居住まいは、確かに『伊豆の踊子』と呼ぶにふさわしいかもしれない。
読了日:08月07日 著者:川端 康成
https://i.bookmeter.com/books/576492

■たなばたさま
災害は、いつなんどき起こるか分からない。誰が巻き込まれるのかも想像できない。昨日まで話していた人が、これまで普通に存在していた場所が、一瞬のうちに奪われる。こればかりはどんなに文明が進んでも、なかなか無縁ではいられない。過ぎてしまったことは悔やんでも悔やみきれないだろうが、その時の痛みや悲しみを忘れず、遺された人は生き続けなければならないのだ。彼の祈りは、きっと届いている。
読了日:08月06日 著者:神家 正成
https://i.bookmeter.com/books/13032035

■軍靴のバルツァー 7 (BUNCH COMICS)
エルツライヒの女帝に接見したバルツァー。朗らかな人となりをしているものの、それは外面に過ぎず、誰も彼もが女帝の考える舞台の駒であるとの印象は拭えない。女帝をさらに操っているのがリープクネヒトなのか、それとも彼もまた駒の一つにすぎないのかは今後の展開が待たれる。王位継承問題に関連し、バーゼルラントではクーデターが勃発した。顧問を解任され、バルツァー不在のなかで士官学校の生徒らはどこまで戦えるのか。
読了日:08月06日 著者:中島 三千恒
https://i.bookmeter.com/books/8973162

■デイヴィッド・コパフィールド〈3〉 (新潮文庫)
予感を裏切らず、デイヴィッドの人生に嵐が訪れる。エミリーの失踪や伯母の破産。そしてユライアのじわじわとにじり寄ってくる気配がなんとも不気味。プロポーズから長く待たされ、やっとドーラと結婚生活に入るデイヴィッドだが、これもまた順風満帆とはいかない。ドーラの「ベイビー奥さん」ぶりは、そのままデイヴィッドの母親と重なる。恋人同士、離れた場所で生活していたからこそ味わえる恋の楽しさから一転、所帯を持つという感覚にどうも馴染めないでいる二人は、果たしてどうなるのだろう。
読了日:08月05日 著者:チャールズ ディケンズ
https://i.bookmeter.com/books/20481

■夜を守る (双葉文庫)
IWGPシリーズは池袋が舞台となっているが、こちらはアメ横を拠点に活動する若者たちの物語。さまざまな事情を抱えながら、日々を懸命に生きる人々の姿が活き活きと描かれている。損得を超えたところにある生の充足感というものは、日常からすこし離れた場所でこそ見出されるものなのかもしれない。物語冒頭で登場した、亡くした息子の無念を晴らそうとする父親が、最後にきちんと救済されていてホッとした。著者の描く勧善懲悪の物語は、押し付けがましさや説教くささが排されているので、読んでいて清々しい。
読了日:08月04日 著者:石田 衣良
https://i.bookmeter.com/books/418312

■軍靴のバルツァー 6 (BUNCH COMICS)
激しい戦闘を辛くも生き延び、生還することができた士官学校の生徒たち。しかしその平穏のひと時も、次の闘いに突入するまでの準備期間でしかない。国家に巣食う闇がじわじわと足元にまで広がってくるが、果たして彼はどのような選択をしていくのか。戦場は場所を移して外交戦争へと突入する。孤立するバーゼルラントをいかにして救うか思い倦ねるバルツァーだが、ヴァイセン軍人である彼ができることには限りがあり、悩めるところだ。従軍記者アンネリーゼの存在感が良い味を出している。
読了日:08月03日 著者:中島 三千恒
https://i.bookmeter.com/books/7915914

■アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
非現実的な世界ではあるものの、現実を生きていく人々にとって考えさせられるテーマが内包されている。本物と偽物、この世界では実に曖昧だ。己が己であることを信じるには記憶が要となるが、その記憶が真実であると、いったい誰が保証できるだろう。しかし、物語のなかでは「どちらも等しく愛されて良い」という大きな肯定がされているように感じられた。なぜならば、人間であれアンドロイドであれ、考え、行動し、自然であれコントロール下にあるものであれ、そこに存在しているという点で、平等だからである。
読了日:08月03日 著者:フィリップ・K・ディック
https://i.bookmeter.com/books/577666

■カンガルー日和 (講談社文庫)
少しシュールなショートショート集。面白いとか、つまらない、悲しい、というような感情は芽生えないが、その世界観のなかはただ居心地が良い。理屈や常識などは横に置いておいて、文章を追っている時間を楽しむ。そのような一冊である。『4月のある晴れた日の朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』『あしか祭り』『スパゲティーの年に』などが気に入っている。素敵な女の子、具体的な描写は一切ないが、読者個々人が胸に描いた”素敵な女の子”を当て込んでみれば、きっと100%の物語になる。
読了日:08月02日 著者:村上 春樹
https://i.bookmeter.com/books/570716

■レッド・クイーン 2 ガラスの剣 (ハーパーBOOKS)
命からがら敵前から逃げ出すも、彼女たちの道はどこまでも血に濡れている。前回に引き続き展開に次ぐ展開で飽きないが、メアを見ているともどかしい気持ちになってしまう。どこに敵が潜んでいるのかわからない上、味方も100%信頼を寄せてくれるわけでもなく、毎日気が抜けない。それなのに彼女はつい目先の感情に走り、自らの選択によって仲間や大切なものを次々に失っていく。オール・オア・ナッシングの姿勢は自身も他者も消耗するものだが、しかし激情家であるからこそ、この過酷な舞台で目を奪われるような物語を紡げるのかもしれない。
読了日:08月01日 著者:ヴィクトリア エイヴヤード
https://i.bookmeter.com/books/12544629

■満艦飾
おそらく一世一代であろうプロポーズを変なダンスと言われては、閉口せざるを得ないだろうなと笑ってしまった。結婚したら、彼らはますます幸せで平和な家庭を築いていくのだろうと思えた。なんだかんだで程よい形で収まっている彼らの関係性が、それを象徴している。
読了日:08月01日 著者:神家 正成
https://i.bookmeter.com/books/13046851


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