2018年6月の読書まとめ

2018年6月の読書メーター
読んだ本の数:41冊
読んだページ数:10661ページ
ナイス数:2530ナイス

https://bookmeter.com/users/584290/summary/monthly
■父の日に来た娘
なんともダーク。父の日は父をねぎらう日だが、こちらは父がもうひと頑張りする話。騙された「父」と騙す「父」、心理的な葛藤を考えると両方ただの良い人ではないのだが、人の情の味わい深さの一端が垣間見える。そして、それをお膳立てする母もすごい。
読了日:06月30日 著者:誉田 龍一
https://bookmeter.com/books/12969863

■アド・アストラ 11 ─スキピオとハンニバル─ (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
ジスコーネとの戦い。カルタゴ・ノヴァに続いて、ここでも過去のハンニバルとの戦いで経験した戦術を真似し、マシニッサを捕虜とする。快進撃を続けるが、一方ではハンニバルに勝つため、戦術だけでなく心までもハンニバルになりきろうとするスキピオ。ローマ人にとって怪物のようなハンニバルだが、そのハンニバルもまた、ローマという怪物によって生み出された天才だ。負の連鎖ともいうべき二人の因縁だが、この決着がつくのもそれほど遠い未来ではない。
読了日:06月30日 著者:カガノ ミハチ
https://bookmeter.com/books/11517977

■抱擁、あるいはライスには塩を 下 (集英社文庫)
妙な言い方かもしれないが、この物語において桐叔父以上に死を迎えるにふさわしい人物はいない。一族のなかでもっとも自由で、ナイーブで、優しい人。直截的な伏線はないのにも関わらず、上巻の時点で彼が死んだら悲しいだろうという思いが自然と湧き、下巻で実際に死を迎えるとストンと腑に落ちるような気持ちになった。抱擁も、ライスには塩をという言葉もプライベートなもので、その崇高さが彼の死によってより極められている。紡がれていく歴史が終わりを迎えるそのときまで、反骨的な彼らは挑み続けるのだろう。ライスに塩を振るために。
読了日:06月29日 著者:江國 香織
https://bookmeter.com/books/7871670

■抱擁、あるいはライスには塩を 上 (集英社文庫)
驚くほど反骨的な一族の物語。学校には行かず自宅で勉強をし、海外をふらふらと飛び回り、婚約者がいても家出してよその男との子供を身籠もる。彼らは社会に対して反抗的であるのと同時に、彼らが一番身近に感じているはずの一族に対しても、やはり反抗を試みている。外界と自分自身との戦いは、あるいはとてつもない孤独を感じるだろうとは思うのだが、その戦いを捨ててしまえば、自分が自分ではなくなってしまうのだという切実さも込められている。各章違う人物の視点によって、ほかの人物の人生も補完されるという構成が面白い。下巻へ続く。
読了日:06月28日 著者:江國 香織
https://bookmeter.com/books/7869215

■ローマ亡き後の地中海世界1: 海賊、そして海軍 (新潮文庫)
ローマ帝国が滅亡し、イスラム教徒やサラセン人が台頭する地中海世界。「中世は暗黒時代」「いや、中世は暗黒時代ではない」という議論はわたしも耳にしたことはあるが、かつてのローマを思えば、どうしても中世は暗い時代だと感じてしまう。語られるべき歴史的な人物は何名かいるが、これぞという英雄の姿が見えてこないのだ。ルネサンスの到来でようやく光明が見えてくるが、それまでにはさらに時間が必要だという。とはいえ、そこに辿り着くまでに人々がどのような営みを経てきたのかには興味があり、読み進めないわけにはいかない。
読了日:06月27日 著者:塩野 七生
https://bookmeter.com/books/8169623

■イノサン Rouge ルージュ 8 (ヤングジャンプコミックス)
試行錯誤のうえ、ようやく完成したギロチン。斬首刑を貴族だけでなく、平民にもとの考えから作られた処刑道具だが、その完成によって革命における処刑の人数は大幅に跳ね上がった。次男の最期には胸が痛む。友情や愛情を感じる人々の命を、自らの手で奪うという苦痛の大きさは計り知れない。それにしても、フランス革命の流血の多さには驚きを通り越して呆然としてしまう。処刑だけを数えても、“アンリは生涯3000人余りの首の撥ねることになるが、この時点で200人にも満たない”。並みの人間ならば、とうの昔に心を病んでいる。
読了日:06月27日 著者:坂本 眞一
https://bookmeter.com/books/12849669

■屋根裏の散歩者  江戸川乱歩ベストセレクション3 (角川ホラー文庫)
『屋根裏の散歩者』『暗黒星』の二篇収録。解説で触れられていた、江戸川乱歩の「懐かしさ」については興味深く読んだ。わたしも何とはなしに乱歩には「懐かしさ」を感じる。幼いころに何作か読んだ記憶があり、それに由来した感情なのだろうとは思う。しかし、現役で執筆活動をしていたころからそのような惹句を使われていたとは驚いた。乱歩の描く少しチープで、けれど奇妙で不気味で、指の隙間からそっと覗き見たくなる世界観が、老若問わず子供心のようなものをくすぐるのかもしれない。そういった意味で、かけがえのない作家性だ。
読了日:06月26日 著者:江戸川 乱歩
https://bookmeter.com/books/541297

■カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)
ゾシマ長老とフョードルの死によって、物語は一気に加速する。「父」に属する存在であるふたりであるからこそ、その死による影響は大きい。これまで思想的、哲学的なテイストを強く感じていた本作だが、フョードルの死をめぐり、ミーチャが尋問を受ける場面などは、ミステリーとも呼べる様相を呈している。果たしてミーチャは父親殺しの犯人なのか、そうでないならば誰が父親を殺したのか。天使の葱と罪人の話は『蜘蛛の糸』そのものだが、芥川は本作ではなく、さらに大元となった書物を読んで着想を得たらしく、そちらにも興味がわいた。
読了日:06月25日 著者:ドストエフスキー
https://bookmeter.com/books/564899

■ぬまがさワタリのゆかいないきもの㊙図鑑
驚きと意外性に満ちた、生き物の秘密をわかりやすく紹介している。リカオンのくしゃみで投票する社会性、ゲンジボタルは発光のパターンに関東型と関西型で分かれており、違う発光パターンを持つ個体同士は求愛しても意思疎通ができないので番になれないなどあるが、なかでも驚いたのはウオノエ。口内に取り付く寄生生物で、エラから魚の体内に侵入。取り憑かれた魚は舌がなくなっていき、最終的にはウオノエが新しい舌に成り代わって栄養を得続ける。取り憑かれた魚は死にはしないが発育が悪くなることがあるという。でも、死ぬほど不気味だ。
読了日:06月24日 著者:ぬまがさワタリ
https://bookmeter.com/books/12706085

■最後の手紙
母と自分を残して死んでいった父のことを恨みつつ、忘れられない思いから立ち上がり、未来を生きることを決意する娘。しかし、一方の母親の視点を読むとなんともいわく言いがたい読後感が残る。立場の異なる人の心情は推し量り難く、簡単には共有できない。寄り添えないことの哀しさ、理解してもらえないことの切なさが伝わる。娘が真実を知る日は来るだろうか。もしも知ることがあったとしても、その時はきちんと受け止められるだろう。娘には家庭があり、支えてくれる人がそばにいるから。
読了日:06月24日 著者:神家 正成
https://bookmeter.com/books/12967127

■東の果て、夜へ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ある人物の殺害を課せられた4人の少年たち。クライムノベルでありロードノベルでもある本書だが、最初から最後まで山登りしているような気分で読んだ。進むのが辛いのに、進まずにはいられない。ひとりきりになった主人公の孤独に、胸がひりつく。彼に少年としての成長など必要ないのではないか、という指摘通り成熟した雰囲気があるのだが(13才の弟はさらに老成した感がある)、やはりまだ成長過程なのだろう。たどり着いた場所に何が待っていようと、これまでの勤勉さが助けとなるのだろうか。少年はまた、東に向かって夜を行く。
読了日:06月23日 著者:ビル ビバリー
https://bookmeter.com/books/12269449

■村上ラヂオ2: おおきなかぶ、むずかしいアボカド (新潮文庫)
著者エッセイ集。いわく、著者のエッセイに対して「なんのメッセージも思想性もない、紙の無駄遣いだ」などという批判があるそうだが、わたしとしては、エッセイでも小説でも、教訓めいたものやテーマなどは読者が勝手に感じるものだし、仮にそういったものがなかったとしても、読み物というのは割合楽しめると思っている。日常のなんということのない風景も、好きな作家の手にかかればなんでも新鮮に感じてしまうので、わたしはかなりちょろい読者かもしれないが。コロッケの話、二度目の登場だがよほど大変だったのだろうなと笑ってしまった。
読了日:06月22日 著者:村上 春樹,大橋 歩
https://bookmeter.com/books/7667833

■レッド・クイーン (ハーパーBOOKS)
仕事がなければ徴兵を待つだけの貧しい『レッド』、特殊な能力を持ち裕福な『シルバー』、二つの階級に大きく別れた世界で生きるメアの、過酷だが華麗な物語。何も持たない主人公が、優雅な世界に身を投じていくシンデレラストーリーかと最初は思っていたが、急展開の連続にページを繰る手が止まらなかった。ファンタジーならではの派手な戦闘、ふらふらとした恋愛、そして陰謀。誰が誰を裏切るかわからないと散々煽られていたので、黒幕のことはずっとそういう目で見ていたが、こんな終わり方をされたら続きを読まずにはいられない。次巻が楽しみ。
読了日:06月21日 著者:ヴィクトリア・エイヴヤード
https://bookmeter.com/books/11491832

■父の日は、母と二人で(記念日にショートショートを)
男子の出生率が激減し、結婚や出産の形がいまとは大きく異なった未来を描いたショートショート。滅多に顔を見せない父親という存在は、もはや家族としての役割も、意義も、希薄になってしまうだろう。本当にそんな未来が来たとしたら、この物語のように記念日として大々的に感謝を表すということはしないのではないだろうか。身近にいて日々親しい関わりがあり、だからこそ、その日常性に価値を感じる。
読了日:06月21日 著者:行成 薫
https://bookmeter.com/books/12967420

■アド・アストラ 10 ─スキピオとハンニバル─ (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
将としての第一歩を歩み始めたスキピオは、破竹の勢いでカルタゴ・ノヴァを攻め落とす。カルタゴは劣勢となるが、そこは名将ハンニバル、最高の戦士ではあるが最高の将にはなれなかったマルケルスを打ち倒した。今でこそローマはハンニバル憎しと戦いに臨んでいるが、ハンニバルの闘志は、元々はローマ憎しで始まっている。孤高の存在であるゆえについ忘れがちだが、彼の何をしてでも勝ってみせるという泥臭さ、人間臭さに、時折ハッとさせられる。弟ハッシュを殺された彼が次に出る行動から目が離せない。
読了日:06月20日 著者:カガノ ミハチ
https://bookmeter.com/books/11109273

■芋虫  江戸川乱歩ベストセレクション2 (角川ホラー文庫)
著者短編集。どれも子供のころに読んでいたらトラウマになっていそうな、不気味で怪奇な物語ばかり。特に表題作『芋虫』は、筋書きから表現からゾッとさせられる。四肢がなく、耳も聞こえず、言葉を話すこともできない夫。ただ瞬きし、横たわって妻が甲斐甲斐しく世話を焼くに任せる存在。そんな夫の視力を、奪おうとしてしまう妻。魔がさしたというべきか、しかしそれは、誰にでも訪れるような、恐ろしい瞬間かもしれない。乱歩の作品からは、誰もが清廉潔白ではいられない、逃れられない残酷さへの誘惑が潜んでいる。
読了日:06月20日 著者:江戸川 乱歩
https://bookmeter.com/books/541296

■カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)
第一巻では、女性関係をめぐって親子の仲を超越した泥沼の争いが演じられ、「いったいどうなってしまうのだろう」と傍でおろおろ見守っていた。本巻においては、物語のスピードは緩められるものの、カラマーゾフ家の人々をとりまく個性的な登場人物それぞれにスポットが当てられており、彼らが結末へ向かってどのような役割を果たすのか、興味が尽きない。アリョーシャとイワンの、宗教や神についての問答。彼らが大真面目に語らうほど、実際に起こっていることの俗っぽさが際立っている。
読了日:06月19日 著者:ドストエフスキー
https://bookmeter.com/books/572105

■アド・アストラ 9 ─スキピオとハンニバル─ (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
シラクサで軍に参加していた意外な人物、天才数学者のアルキメデスとスキピオの邂逅。市民に手を出さないことを条件に、シラクサ軍の攻略法をアルキメデスは明かした。彼の最期は塩野七生の『ローマ人の物語』で、それと知らず殺されてしまったと読んだが、この漫画では劇的に演出されている。敵と味方に分かれて戦えば、そこには悲劇も喜劇も生まれうる。陣営は異なったが、スキピオとアルキメデスがもし共に戦うことがあれば、どんな戦術が織りなされただろうと興味が湧く。
読了日:06月18日 著者:カガノ ミハチ
https://bookmeter.com/books/10403122

■プレゼントに最適な本
恋人に贈るプレゼントを選ぶために古書店にやってきた女の子と、書店の主の短い話。正直な感想を言うと、ちょっと良く分からなかった。プレゼントの候補として挙げた「恋愛小説」も「ミステリ」も、なぜ彼女は古書店で買おうとしたのだろう。その答として店主が江戸末期に書かれた古書を出して来たのは、なんとなく納得する。が、最後のヤギは何を意味しているのか。古書はヤギの餌のために取っておいたのだろうか。それもなんだかスッキリしないが、わたしが行間を読みきれていないのかもしれない。
読了日:06月18日 著者:喜多 喜久
https://bookmeter.com/books/12840456

■ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス)
その憂鬱は、「俺の人生、こんなはずではなかったのに」という困惑から生まれている。長編小説を生業にしたいのにどうしても書けず、短編とジャーナリズムのあいだを行き来する主人公。南極で仲間とともに暮らしているはずだったのに、動物園の都合で人間のもとに送られ、孤独に生きるペンギン。彼らの人生は目に見えない何ものかによって操作され、自分では舵取りが不可能だと無力感に襲われる。この物語における死の役割とは何であろうか。途方に暮れるような人生からの脱却には、それしか方法がないということか。あるいは不条理の象徴か。
読了日:06月17日 著者:アンドレイ・クルコフ
https://bookmeter.com/books/573023

■ニューヨークの魔法使い <(株)魔法製作所> (創元推理文庫)
テキサスからNYにやってきた26歳のケイティ。恋も仕事も鳴かず飛ばずで平凡だけが取り柄という彼女だが、ある日突然その平凡な日常は壊れてしまう。“ファンタジー版ブリジットジョーンズの日記”との煽り文句の通り、いまどきらしい生活描写や人間模様、若さゆえの悩ましさが活き活きと描かれている。よく知った世界から一転し、魔法使いたちの世界に足を踏み入れてしまうのは、テキサス(地元)からNY(見知らぬ土地)に身を置くのと同様、不安や緊張を強いられるものだ。それでも勇気を持って挑む彼女に、あたたかなエールを送りたい。
読了日:06月16日 著者:シャンナ・スウェンドソン
https://bookmeter.com/books/574752

■格差社会
バレンタインと比べて盛り上がらないことを気に病むホワイトデー。彼(?)の話を聞き励ますものの、最後は「自分もやめちゃおうかな」とひとりごちる父の日。世の中、記念日にあやかった商戦が多いのは否めない。バレンタインも母の日もみんな気合を入れているが、それが過ぎるとなんとなく中弛みして、間にあるイベントはついおざなりにしてしまうのだ。個人としてのスタンスは「祝いたいなら祝い、気が乗らないならスルーする」がちょうど良いと思うのだが、目に見えて差の出る物事に対して自他を比べ、へこんでしまう気持ち、とても良くわかる。
読了日:06月15日 著者:水沢秋生
https://bookmeter.com/books/12762827

■アド・アストラ 8 ─スキピオとハンニバル─ (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
背信の気配に気づいていながらも目を瞑り続けていたハンニバルに、人間らしい優しさと弱さを感じた。自分はハンニバルを超える存在だと信じ、驕ったマハルバルはガイウスによって打ち果たされる。最初は臆病でなにかと戦場を逃げ回っていたガイウスも成長したものだと驚かされた。思えば彼も、スキピオという秀才を傍で見続け、凡庸な自分に幻滅してきた存在だ。死地を経験し、自分にしかできない戦い方を知ったからこその戦果を得たガイウスは、ついにそれを会得できなかったマハルバルとは対照的な人物である。
読了日:06月15日 著者:カガノ ミハチ
https://bookmeter.com/books/9810727

■人間椅子  江戸川乱歩ベストセレクション(1) (角川ホラー文庫)
著者短編集。『人間椅子』『お勢登場』『鏡地獄』『押絵と旅する男』などを読んでいると、狭い場所に入る一種の憧れを感じるが、奇妙であると同時に共感を覚える。誰にも見られずに、他人や外の世界を一方的に感じ取る優越感にも似た安心感。それを続けている間だけは、世を疎み世から疎まれる自分からは脱却できる。しかし、乱歩の描く物語はそれだけでは終わらない。夢のような陶酔の先には、決して後戻りの効かない狂気が待ち受けている。それでも、彼らにとってはその陶酔の世界こそ、うつし世よりも幸福な場所なのだろう。
読了日:06月14日 著者:江戸川 乱歩
https://bookmeter.com/books/571123

■回送電車 (中公文庫)
著者随筆集。「夢と現実といったたぐいの手垢にまみれた二項対立を前提にして、そのあわいにあるなにかを手繰り寄せたいなどと生産性に乏しい独語を重ねていたのだが、(中略)選び取るべき方途は、名状しがたいはざまに直接触れることなのである」取り上げた物事は日常にありふれた些末な物事だが、その一つ一つにあてる視線がどこか哲学的だ。著者の作品は本書が初めてだが、学生の頃からフランス文学を研究していたと知り腑に落ちた。思索に富んだ文章からは、フランス映画や文学のなかにある、成熟した文化の匂いを感じる。
読了日:06月13日 著者:堀江 敏幸
https://bookmeter.com/books/579857

■カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)
女好きで道化者の父親フョードルと、3人の息子たち。物語はまず謎めいた序文から始められる。主人公アレクセイのことを変わり者、変人、神がかりと紹介するが、実際に読み始めてみると彼よりも父親の方が数倍強烈だ。また「伝記は一つなのに小説は二つ」という言葉も意味深。書き手の真意はわからないまま物語へ突入すると、立て板に水を流すようなセリフの洪水。まるで舞台を見ているようである。今のところ、「なんだかすごいものが始まった」という漠然とした印象しか持っていない。次巻へ続く。
読了日:06月12日 著者:ドストエフスキー
https://bookmeter.com/books/578786

■幸運を呼ぶ本
仕事をクビになり、妻は子どもを連れて実家に帰る。ネットカフェに出入りし、その日の食事にも事欠く男の前に現れた謎の夫人。どこからが夢で、どこまでが現実なのか考えると面白い。今はどん底でも、いつか浮上できるよと励ましたくなるが、そんな慰めはこの男の性格同様、軽佻浮薄にすぎるだろうか。
読了日:06月12日 著者:ヒデキング
https://bookmeter.com/books/12839277

■人生を狂わす名著50
京大院生の書店スタッフである著者が、「これを読んだら人生が狂う」と思えた名著を50冊選び、書評した一冊。国内外の古典から児童書、最近のエンタメ小説、ノンフィクション、エッセイ、思想書哲学書、漫画までなんでもござれの書評だが、一冊一冊にかける熱量もまたすさまじく、おもしろい。なんとなく肌に合わないと思って読むのをやめてしまった小説家の本や、知ってはいたけどまだ読んでいない本はどれも読みたくなるし、既に読んでいる本も、また一度手に取りたくなる。ああ、こうして読メの「読みたい本」がまた増えていく……(幸せ)。
読了日:06月11日 著者:三宅香帆
https://bookmeter.com/books/12229047

■五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
16年前に起きた殺人事件。犯人とされ、獄中で死んだ母親の無実を証明してほしいという娘の依頼により、ポアロは五人の容疑者の元を訪れる。容疑者は過去を洗ってみると全員が怪しく見え、誰もが真犯人に見えてくる。しかし、結末を読み終えてから改めて最初の方に戻ると、キャラクター造形は抜きん出て詳細に、そして印象的な人物がいる。なるほど最初からヒントは提示されていたのか。一生消えない罪を背負い、贖い続けるという決意をしてきた母親カロリン。そのエピソードを読んで、まんまとミスリードにはまってしまった。
読了日:06月10日 著者:アガサ クリスティー
https://bookmeter.com/books/557294

■アド・アストラ 7 ─スキピオとハンニバル─ (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
持久戦を望むファビウスとは違い、あくまで力押しをしたいマルケルス。何の策もないまま飛び込んで行こうとするマルケルスを、スキピオは「ハンニバルに勝てるのはただ一人、ハンニバルだけ」と諌める。本巻のハイライトは、マゴーネとハンニバルの語らいだろうか。常に遠くを見定め、着実に力をつけている天才型のハンニバルは、努力してもそこそこでしかない凡人たちにとっては理解しがたい。だからこそ齟齬が生まれ、感情も澱んでしまうのだろう。とはいえ、信頼したいと願っている相手から反逆されるのは、辛く惜しい。
読了日:06月10日 著者:カガノ ミハチ
https://bookmeter.com/books/9397916

■GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ (角川文庫)
メカゴジラが起動さえすれば、人類は救われる。そう信じ続け、人々は老若男女問わず武装し、戦いへ身を投じていく。そのさまがあまりに痛々しく、胸が痛んだ。前作同様ルポルタージュの形で綴られた人間とゴジラとの戦いだが、ゴジラを前にした人間の無力さに、生き残った人々と共に絶望する。同時に往年のゴジラ映画に対するオマージュがふんだんにあり、ジャンルを知っていればいるほど楽しめる作品。ガイガンには思いがけず感情移入してしまった。
読了日:06月09日 著者:大樹 連司(ニトロプラス)
https://bookmeter.com/books/12791233

■復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)
人を動かすことの、なんと難しいことか。特に未曾有の危機にあり、多くのものを失ったばかりであるこの時に。しかし立場がひとを育てるという場合があるように、魅力的なキャラクターたちは見事に成長を果たし、二度目の災害を乗り越えた。主人公であるスミルやセイオの活躍はもちろん括目に値するが、ネリと篤志人たちのドラマもやはり見逃せない。彼らは政治を直接的には動かす力はないが、その行動力は間違いなく未来を作り、またより良い形へ導く手助けとなるだろう。
読了日:06月08日 著者:小川 一水
https://bookmeter.com/books/548184

■アド・アストラ 6 ─スキピオとハンニバル─ (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
ローマのミヌキウス、アエミリウス対カルタゴのギスコ。かつては捻れた関係にあった二人が、命がけでギスコに立ち向かうものの、運は彼らに味方しなかった。カルタゴの十倍もの損害を負ったローマは、カンナエの戦いで敗北を喫する。ローマに続いていた栄光がここで終わりを迎えたのだ。だがその敗北により、スキピオには新たな闘志が芽生える。暴君さながらのマルケルスの下に配属された彼は戦功を挙げ、より高みを目指そうと誓ったが、マルケルスのクセの強さは著しい。二人は協調できるのか、今後も展開が見逃せない。
読了日:06月07日 著者:カガノ ミハチ
https://bookmeter.com/books/8178278

■読書家の夫(記念日にショートショートを)
前半部までは愛する夫に本をプレゼントする優しい妻、仲睦まじい夫婦のほのぼのとした話かと思っていたら中盤で「?」となり、後半で呆然となった。突然のサスペンス、妻の暗い執念深さにグッサリとやられるショートショート。ヘッセの車輪の下は高校生の頃一度読んだきりでほとんど忘れてしまったが、不覚にも読み返したくなった。
読了日:06月07日 著者:行成 薫
https://bookmeter.com/books/12839481

■羅生門・鼻 (新潮文庫)
(再読)表題作『羅生門』『鼻』を中心とした著者短編集。人の心の機微にハッとさせられ、同時に「そうそう、そうなんだよな」と悔しくも納得し、認めさせられる。決然とポリシーを掲げて生きていても、目先の生活すらままならなければ簡単にそれを捨て、人の道を踏み外す。羅生門の下人だけにとどまらず、その瞬間は誰にでも訪れうるものだ。しかし著者はそれを裁くのではなく、ただ粛々と活写している。読んでいて特に好きだと感じたのは『鼻』と『好色』。どちらの主人公もなんだか間が抜けていて憎めない。
読了日:06月06日 著者:芥川 龍之介
https://bookmeter.com/books/570328

■グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)
(再読)初読ではギャツビーの孤独さにばかり目を向けていたが、もう一度読んでみるとそのほかの人物たちもまた孤独であることに気付かされた。彼らにはそれぞれ人目を憚るような秘密があるが、なぜキャラウェイにあけすけに打ち明けるかといえば、キャラウェイもまた孤独でありつつも、あくまで「行きずりの人間」であり、「道先案内人」であるからだ。人生の友ではない。物事を決めつけないキャラウェイは彼らにとっては優しく、また都合の良い人間だったのだろう。しかし結局、みな過去に押し戻されながら永遠になにかを夢想し続ける。
読了日:06月05日 著者:スコット フィッツジェラルド
https://bookmeter.com/books/105027

■数奇にして模型 (講談社文庫)
密室のなかの首なし死体と倒れた容疑者、また別の場所にも死体が一つ。二つの事件に関連性はあるのか、またどう考えても理解できない点をどう解釈すべきか、複雑な事件に犀川と萌絵が挑む。最初の章がまず念頭にあったので、やはりそこで騙された。「これじゃ嘘になってしまうじゃないか」と思いがちだが、当人としては決して嘘ではない。むしろ形ばかりに囚われていたわたしが結局理解していなかったということなのだろう。模型とは形を模倣するだけのものではない、その造形を成すことの意味を掬い取ってこそという哲学は興味深かった。
読了日:06月04日 著者:森 博嗣
https://bookmeter.com/books/569725

■GODZILLA 怪獣黙示録 (角川文庫)
ゴジラと戦い、敗れ、地球を追われた人類。なぜそのような状況に至ったのかが、インタビュー形式で綴られる。当時幼かった子供、政治家や科学者、兵士。さまざまな立場にいた者たちが、未知の脅威にさらされ、命の危険を経験し、身近な存在を喪う。その様子が実に生々しく、臨場感たっぷりに描かれている。本巻は報告書を作成した人物が現在の妻と出会い、結婚し、情勢的にも怪獣たちへの反撃が成功するなど好転した様子で締めくくられるが、どうやらことはそれで終わらないようだ。この後どのような恐怖が人類を襲ったのか、第二弾へ進む。
読了日:06月03日 著者:大樹 連司(ニトロプラス)
https://bookmeter.com/books/12376851

■復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)
目的を共にしているにも関わらず、足並みの揃わなさが状況を停滞させている。最初は統治者として未熟なスミルをセイオが育てていくようなイメージで読んでいたが、よく考えればセイオもまだまだ若く、人を導くには経験が浅い。以前、司馬遼太郎の小説で、「大勢の行動を束ねようとするなら、心もしっかり掴んでいなくてはならない」という言葉を目にしたが、セイオの自己に閉じこもりがちな性質が災いし、結果反感を抱かれることになった。スミルとのことが心を開くきっかけになると良いが……。
読了日:06月02日 著者:小川 一水
https://bookmeter.com/books/548182

■Fate/Grand Order-turas realta-(2) (講談社コミックス)
人類の歴史が終焉を迎えることを阻止するため、人理の修復に乗り出した主人公と組織カルデア。本巻は腹を括った主人公がレイシフトを行い、15世紀のフランスへ旅立つ。聖女としてのジャンヌと、竜の魔女として人の世を恨むジャンヌ。二人がぶつかり合い戦うというシナリオは、原作ゲームのプレイ中も非常に面白く見ていた。わたし個人のジャンヌ観は、悔恨を募らせて復讐の鬼になるというイメージはないのだが、聖女としての彼女も、魔女としての彼女も、結局は後世の人の幻想であり、それこそが英霊というものの本質なのだと思っている。
読了日:06月01日 著者:カワグチ タケシ
https://bookmeter.com/books/12780788

■なんでもよくない(記念日にショートショートを)
母の日の贈り物に悩む娘のおはなし。実母に対しても悩むだろうが、それが継母となれば一層難しく、いろいろと考えてしまうだろう。こちらのレビューを読むと、さまざまな方々の母娘関係が伺えて興味深い。本作に関しては、要求や強制をされているわけではなく、自然と感謝の気持ちを伝えようという娘の行動から、良い人間関係を営めているのだろうとほっこりした。
読了日:06月01日 著者:行成 薫
https://bookmeter.com/books/12884229


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