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2018年11月の読書まとめ

2018年11月の読書メーター 読んだ本の数:40冊 読んだページ数:10967ページ ナイス数:2954ナイス https://bookmeter.com/users/584290/summary/monthly ■柔かい月 (河出文庫) タイトルから勝手にファンシーなイメージを抱いていたが、まったく違った。物理学や生物学をモチーフとした物語は哲学的なメッセージが込められており、その変幻自在な語り口はまるで魔術師のよう。主観と客観、男と女、月と鳥。対極にあるものもそうでないものも、そこに境界があるものは、すべて混ざり合い、渾然一体となる。区別しない、カオスをカオスのままに言葉で置き換えたとするならば、本書のような世界になるのかもしれない。 読了日:11月30日 著者:イタロ カルヴィーノ https://bookmeter.com/books/579609 ■イノサンRougeルージュ 9 (ヤングジャンプコミックス) 国王の処刑を巡り、議会は混迷を極めるが、その混迷は市井にも広がっていた。一つのパンを巡って民衆が血で血を洗う。この状況を一新するには、尊い生贄が必要であると断じたサン・ジュストは国王の処刑を求め、議会はまさにその一票により国王処刑を確定したのだった。計り知れない苦悩と絶望から自らを奮い立たせ、処刑を執り行ったアンリだが、それが果たされたからと言って彼に救いが訪れるわけではない。生まれたばかりの醜悪な「共和国・フランス」を、彼は今後も苦しみながら生きるのだろう。 読了日:11月30日 著者:坂本 眞一 https://bookmeter.com/books/13171020 ■山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫) 著者短編集。やはり表題作が出色である。『山椒大夫』は、情感に訴えてくる物語だとは思うのだが、その内容を上手く自分のなかで消化できず、特に姉の死には本当に納得がいかない。いかないが、そのような人生で人はなにを見出すか、どのような選択をするのか考えてみなさいという鴎外からのメッセージかもしれない。時間をおいて読んだらまた違う感想が出てくるだろうか。表題作のほかは『百物語』が印象に残っている。実際のところ、鴎外の作品は海外ではどのくらい読まれているのだろうか。 読了日:11月29日 著者:森 鴎外 https://

2018年10月の読書まとめ

2018年10月の読書メーター 読んだ本の数:40冊 読んだページ数:10648ページ ナイス数:2068ナイス https://bookmeter.com/users/584290/summary/monthly ■玉依姫 八咫烏シリーズ5 (文春文庫) 烏たちの住む世界「山内」の物語は、ほんの前座であったのだということに気づかされた巻。女子高生だった志帆が山神の「母親」となるため生贄とされ、やがて本当の「母親」としての役割に目覚めていく。しかし、その目覚めは果たして彼女自身の意思でなされたものだったのか、と聞かれると、一概に断定した答は出せない。わたし自身、「本当に自分の意思で自分の人生を選んでいたのだろうか」と不安になる。だが、結局のところ選んだからにはそれを全うせねばならず、やりきる以外に道はない。次巻はどのような切り口で物語が紡がれるのだろう。 読了日:10月31日 著者:阿部 智里 https://bookmeter.com/books/12757424 ■不老不死の日 「不老だが不死ではないヴァンパイアと不死だが不老ではないゾンビ。両方を兼ね備えるなら幸せになれるのでは?」シュールでコミカルだが、抱擁を交わし合い噛みつき合うヴァンパイアとゾンビを映像で見たら、さぞ圧巻だろうなと思う。不老不死、概念としては憧れるが実際にそうなったら人生に飽きてしまいそうだ。でもどうだろう、もてあますような長い時間のなかで、読書し続けるのも悪くないような気もする(脳が老化しないなら楽しめそう)。もう少し考えてみます。 読了日:10月31日 著者:木下 まさき https://bookmeter.com/books/13160480 ■十月の旅人 (ハヤカワ文庫SF) 10月中に読みたかったので、予定を繰り上げて。特に印象に残っているのは『十月のゲーム』。冬は外に出かけられないし、気分も鬱屈とする季節。10月はその始まり。そんなメランコリックな主人公の心情をそのまま映し出したかのように、物語のトーンはひたすら暗く、不気味で、居心地が悪い。だが、なぜかこの世界観からは抜け出せない魅力がある。そのほか『昼下がりの死』、『永遠の地球』が気に入っている。SFと幻想小説のあいだを行き来する作風に賛否両論あったそうだが、ノスタルジックな哀切と余韻は唯一

2018年9月の読書まとめ

2018年9月の読書メーター 読んだ本の数:40冊 読んだページ数:10951ページ ナイス数:1550ナイス https://bookmeter.com/users/584290/summary/monthly ■7人のシェイクスピア 3 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) (再読)故郷の人々から忌まれ、傷つけられ、捨てられ、それでもなお彼らを愛していたリー。しかし、彼らは雨によって押し流され、この世から土地ごと永遠に失われてしまった。大きな喪失であるはずなのに、決して挫けず新たな場所で生きようと思えるリーの強さには感服する。芝居で勝負をすることになったランスとクレタ。富と権力の前に彼は形の上では負けてしまうが、また新たに道が拓ける。ここで初めて登場する「シェイクスピア」の名前。何やら登場人物全員に秘密があるようだ。 読了日:09月30日 著者:ハロルド 作石 https://bookmeter.com/books/2023616 ■ダーク・タワー〈4〉魔道師と水晶球〈下〉 (新潮文庫) ローランドの長い長い回想と、喪失の物語が終わる。話し終えたあと、ローランドが安堵する様子にはこちらもつられ、またスザンナの「あんな経験をたったの14歳でしていたなんて」と悲しみを表す場面には共感を覚えた。重々しい口調と大人びた人柄につい惑わされがちだが、まだほんの子どもだった彼がまるで魂を切り裂かれるような思いをしたことを考えれば、硬く窺い知れない男に成長するのもやむを得ないように思える。後半からのテーマは『オズの魔法使い』。みんな揃って赤い靴を打ち鳴らす様子を想像すると、ちょっと微笑ましい。 読了日:09月30日 著者:スティーヴン キング https://bookmeter.com/books/548760 ■ダーク・タワー〈4〉魔道師と水晶球〈中〉 (新潮文庫) お互いを意識しあいながらも、一度は反発し、ときには強く憎むということを経て、雪崩れ込むように恋に落ちるローランドとスザンナ。これは、少年だった彼らが大人になる物語である。「父親の顔を忘れるな」というのは、大人たちが子供に課した掟であり戒めだ。その枠を乗り越え、自らの意思で道を選ぶということは、自分の行動に対し、自身が全責任を負うということ。しかし、その代償は高

2018年8月の読書まとめ

2018年8月の読書メーター 読んだ本の数:40冊 読んだページ数:11055ページ ナイス数:1843ナイス https://i.bookmeter.com/users/584290/summary/monthly ■いただきます(記念日にショートショートを) ものを食べるということは、他の命をいただくということ。生と死の瀬戸際で、主人公は生き延びるために襲いかかってきた熊を撃つ。普段改めて考える機会はあまりないが、わたしたちは常に犠牲を積み重ね、その上で自らの人生を引き延ばしていることを忘れてはならない。 読了日:08月31日 著者:行成 薫 https://i.bookmeter.com/books/13095103 ■金田一耕助、パノラマ島へ行く (角川文庫) 『金田一耕助、パノラマ島へ行く』『明智小五郎、獄門島へ行く』二編収録。金田一耕助がもしも”パノラマ島”へ行ったら、明智小五郎がもしも”獄門島”へ行ったら……。それぞれが解決した代表的な事件の舞台となった場所で起こる、新たなる事件。二人以外にも名脇役であるキャラクターたちが登場したり、名場面をふと思い出したりと懐かしい気持ちにさせられた。ずっと以前に読書メーターで見かけて面白そうだなとメモしていたのだが、読んでみて初めてシリーズものだということを知る。他の作品も読んでみたい。 読了日:08月31日 著者:芦辺 拓 https://i.bookmeter.com/books/10536199 ■せっかちな夫 せっかちな夫はなにもかも置いてきぼりにしていってしまったが、73年ものあいだ待ち続けていた。再び二人がともに過ごせる時が訪れることを。当事者にとって、この日はやはり特別な思い入れがあるものだろうことは想像に難くはないが、リアルタイムで生きていた者だけでなく、彼らの子や孫にも少なからず感慨深いものを呼び起こさないではいられない。大切なのは語り継ぐことである。また同じことを繰り返し、悲しみを増やすことがないように。 読了日:08月30日 著者:神家 正成 https://i.bookmeter.com/books/13102564 ■赤い靴の誘惑―(株)魔法製作所 (創元推理文庫) シリーズ第2弾。前作で魔法の存在を知り、新たな環境に踏み込みつつも、やはり「普通

2018年7月の読書まとめ

2018年7月の読書メーター 読んだ本の数:44冊 読んだページ数:11568ページ ナイス数:2259ナイス https://i.bookmeter.com/users/584290/summary/monthly ■イサナのモリ(記念日にショートショートを) ショートショートだが、長編小説の一部を読んでいるような感覚。海に生き、海に生かされる人々のシビアな戦いが1ページに凝縮されている。生ある限り続いていくその険しい道のりを前にしても、決して臆さないという覚悟と姿勢に背筋が伸びる。 読了日:07月31日 著者:行成 薫 https://i.bookmeter.com/books/13046785 ■蜘蛛男 江戸川乱歩ベストセレクション (8) (角川ホラー文庫) 殺人者蜘蛛男と明智小五郎の戦い。物語の終盤まで明智の登場は待たされるが、そこに至るまでは決して退屈ではない。蜘蛛への恐怖はわたしも共感する。Gのつく虫と出会うまでは、蜘蛛が一番嫌いな虫だった。ベストセレクションを通して読んだ感想だが、乱歩の作品は二つに分けられる。一つは心躍る冒険活劇、もう一つは倒錯した性癖の世界。それらが融合したものもあるが、いずれにせよ、物語の中心には少年の姿が存在する。無邪気な好奇心とノスタルジーに、大人になったわたしもつられて幼き日に帰るのだ。 読了日:07月30日 著者:江戸川 乱歩 https://i.bookmeter.com/books/479185 ■デイヴィッド・コパフィールド〈2〉 (新潮文庫) 叔母の援助によってふたたび生活に変化が訪れるデイヴィッド。スティアフォースやアグニス、個性豊かなキャラクターの登場に心躍るが、目を引くのはユライア・ヒープの存在。暗く冷ややかなものを湛えている彼の不気味さには、むしろ魅力的であるとも言える。花のような女の子たちに、すぐ惹かれてしまうデイヴィッドの素直さが微笑ましい。バーキスの最期は彼自身の人生の終焉であると共に、デイヴィッドの少年としての日々の終わりを感じさせられる。これから起こる波乱の予感に心ざわめかされつつ、次巻へ。 読了日:07月29日 著者:チャールズ ディケンズ https://i.bookmeter.com/books/22208 ■金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲 (角川文

生まれ変わること

わたしは多分、日々の変化や衝撃にとても鈍いのだと思う。たとえば夏バテするほど練習し、クラリネットで参加して勝ち取った吹奏楽コンクールの金賞だとか。就職が決まって、地元を離れることになった引越しの当日だとか。意外にも早く決まった結婚と、披露宴の夜だとか。 人生のなかでたびたび訪れるいささか大きなイベントも、なんとなく来ることを受け入れ、なんとなくこなし、なんとなく「終わったのだなあ」と見送る。 実際に只中にいるときはそれなりに緊張もしていたと思う。けれど、結局それは通過点でしかない。人生の岐路ではあるかもしれないけれど、岐路は岐路でしかなく、「人生が変わった!」という感動は薄い。だからとても、わたしは鈍いのだと思う。 けれど、出産で人生が変わった。その時も、ひと段落ついた時に振り返ってみても通過点のひとつであるという思いはあったけれど、いま改めて、この一年を通して考えてみると、出産はわたしの人生を変えた。 うちの人とは同じ会社で働いているけれど、勤務時間も帰宅時間もバラバラなので、夕飯を作っておくということはほとんどしなかった。どちらかが休みの日に、気が向いたら用意する程度。交際、同棲生活を含めて約7年ほど、そんな生活を続けていた。変化したのは子どもが生まれてから。離乳食が始まり、いろいろな食材を与えるためにいままで努めて買わなかったようなものを買うようになり、あまったものを自分たちで処理するためにレシピを探して料理するようになったのだ。気づけばいまや、我が家の食事のほとんどはわたしの作る料理で賄われている。 そもそもの話、わたしはあまり、子どもが好きではなかった。うちの人も。じゃあなぜ子どもを作ったのかと聞かれると困る。自然な成り行きでできたとしか言いようがない。無計画だと詰られるかもしれないけれど、でもそれが真実だった。戸惑いながらわたしは妊娠を受け入れた。笑ってしまうのだけれど、「人間って妊娠するんだな」というとても当たり前のことを妙に感心していたことを憶えている。 実際に産んでみたら、子どもはすごくかわいい。産む前からかわいかったけれど(不思議な感情だ)、そのかわいさは日に日に増している。そしてなんと、これがわたしにとって一番大きな変化なのだけれど、よその子どもすらかわいく感じるのだ。 子どもの何が苦手かというと、コントロールの効かなさが

2018年6月の読書まとめ

2018年6月の読書メーター 読んだ本の数:41冊 読んだページ数:10661ページ ナイス数:2530ナイス https://bookmeter.com/users/584290/summary/monthly ■父の日に来た娘 なんともダーク。父の日は父をねぎらう日だが、こちらは父がもうひと頑張りする話。騙された「父」と騙す「父」、心理的な葛藤を考えると両方ただの良い人ではないのだが、人の情の味わい深さの一端が垣間見える。そして、それをお膳立てする母もすごい。 読了日:06月30日 著者:誉田 龍一 https://bookmeter.com/books/12969863 ■アド・アストラ 11 ─スキピオとハンニバル─ (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ) ジスコーネとの戦い。カルタゴ・ノヴァに続いて、ここでも過去のハンニバルとの戦いで経験した戦術を真似し、マシニッサを捕虜とする。快進撃を続けるが、一方ではハンニバルに勝つため、戦術だけでなく心までもハンニバルになりきろうとするスキピオ。ローマ人にとって怪物のようなハンニバルだが、そのハンニバルもまた、ローマという怪物によって生み出された天才だ。負の連鎖ともいうべき二人の因縁だが、この決着がつくのもそれほど遠い未来ではない。 読了日:06月30日 著者:カガノ ミハチ https://bookmeter.com/books/11517977 ■抱擁、あるいはライスには塩を 下 (集英社文庫) 妙な言い方かもしれないが、この物語において桐叔父以上に死を迎えるにふさわしい人物はいない。一族のなかでもっとも自由で、ナイーブで、優しい人。直截的な伏線はないのにも関わらず、上巻の時点で彼が死んだら悲しいだろうという思いが自然と湧き、下巻で実際に死を迎えるとストンと腑に落ちるような気持ちになった。抱擁も、ライスには塩をという言葉もプライベートなもので、その崇高さが彼の死によってより極められている。紡がれていく歴史が終わりを迎えるそのときまで、反骨的な彼らは挑み続けるのだろう。ライスに塩を振るために。 読了日:06月29日 著者:江國 香織 https://bookmeter.com/books/7871670 ■抱擁、あるいはライスには塩を 上 (集英社文庫) 驚くほど反骨的な